サバから採取されたアニサキス(写真提供:神戸大学大学院 保健学研究科 寄生虫学)
「アニサキス症に正露丸 大幸薬品が痛み緩和で特許」という見出しの記事(水産業界専門紙『みなと新聞』7月7日付)がYahooニュースに取り上げられ話題を集めた。
記事では、製造販売元の大幸薬品が「アニサキスの活動を抑える効果がある」として正露丸の主成分「木クレオソート」の活用に関する特許を取得していることを報じ、「正露丸を飲めば大丈夫」という業界関係者の声も伝えている。
その後、twitterなどで「正露丸は本当に効く!」「病院に行かずに治った!」といった体験談を語る人も現れ、反響が広がった。Yahooニュースに取り上げられた翌7月10日には、大幸薬品の株価が一時、17%(前日比)も上昇したほどだ。
しかし、本当にアニサキス症に正露丸を飲んで、安心していていいのだろうか?
論文発表も有効症例報告はたった2例!
アニサキス症は、サバやイカなど生の魚介類を食べ、アニサキスの幼虫が人体内に入り込むと起こる食中毒だ。多くの場合、魚介類を摂取後、6〜12時間以内に発症し、激しい腹痛、吐き気・嘔吐が主症状。発疹やかゆみなどのアレルギー症状が出ることもある。
大幸薬品によれば、正露丸を使用したアニサキス症に関する臨床研究が、大阪大学消化器外科、大阪医科大学、豊中渡辺病院等により行われ、ドイツ医学雑誌「Hepato-Gastroenterology」に論文が掲載されている。
正露丸を服用後、強い腹部痛がただちに消失した2症例を報告。また、試験管内の実験で、アニサキスの成虫体を正露丸の水溶液に入れると、用量依存的に活動が抑制されると報告している。(「2011年11月発表のニュースリリース」より)
わずか2症例のみの報告は、エビデンスとしていささか心もとない……が、そこはひとまず置いておく。
木クレオソートは、ブナやマツなどの原木から得た木タールを精製した液体。殺菌作用があることから、古くから消毒剤や防腐剤としても用いられてきた歴史がある。アニサキスを弱らせる効果があってもおかしくはないだろう。
しかし、アニサキス症が疑われる腹痛が正露丸を飲んで治まったとしても、そのままにはせず、病院を受診すべきだ。
ニュースが話題になった後、神戸大学大学院・保健学研究科寄生虫学はtwitterを通じて「用法用量通りの服用、様子を見て医療機関を受診して、内視鏡検査でアニサキスを除去することが大切」と注意を喚起している。
発信者の入子英幸准教授にうかがったところ、以下のような懸念があるという。
「アニサキス症は、アニサキスの穿入(入り込むこと)部位により、胃アニサキス症、腸アニサキス症、消化管外アニサキス症に大別されるが、9割以上は胃アニサキス症と言われる」
「しかし、腸管壁に穿入する急性腸アニサキス症では、ときにイレウス症状(腸管麻痺により蠕動運動が低下すること)を呈し、消化管壁穿通による急性腹膜炎の合併も起こすことがある」
「そうした場合、手術治療が選択されることもある。正露丸で痛みが緩和されたからといって、医療機関を受診しないと、手術適応が必要な症状の発見を遅らせることにつながるのではないか」
さらに入子准教授は「正露丸により動きが抑制されたアニサキスは、胃壁、腸管壁から脱落するかどうかが不明。もし、そのまま残された場合、『好酸球性肉芽腫』を形成する可能性がある」と指摘する。
「正露丸を飲んだからOK」ではなく、必ず医療機関を受診しよう。「用法用量を守る」ことも重要だ。どんな薬でも服用量を誤れば、有害な事象が起こりうるが、正露丸は最大用量の2〜4倍程度で危険な中毒症状が起こる可能性を指摘されている。
詳しくは以下の記事を参照されたい。