病気、ストレス、自殺も関連死に
では、実際に震災関連死とされたのは、どんな経過で死に至った人たちなのか。「NHKハートネット 熊本地震と災害関連死」によれば、各自治体から発表された実例には、次のようなものがある。
●60代女性:エコノミークラス症候群
4月14日の前震の後から車中生活を続け、16日に車中で意識を失った状態で見つかり、搬送先の病院で亡くなった。エコノミークラス症候群が引き金となる「急性心筋梗塞」と考えられる。
●80代男性:高齢者施設内の環境変化がストレスに
高齢者施設で被災し、建物が損壊。安全な部屋に移動したが、環境の変化によるストレスで死亡。被災のために家族も見舞いに来られなかった。
●90代女性:転院先の病院に患者が殺到
入院中に被災。県内の他の病院に転院。転院先は患者が殺到し、看護師が忙しく対応が十分できなかった。慣れない環境で食欲が減退し死亡。
ほかには、地震のストレスからうつ病を発症して自死(60代女性)、繰り返す余震のショックで心停止(60代男性)、水不足で透析の処置が困難になり死亡(60代男性)といった事例もあった。
ほぼ似たケースでも認められず
一方、「YOMIURI ONLINE」 2018年4月16日の記事では、2011年の東日本大震災での関連死認定に酷似した事例が、却下されたことを報道している。
熊本県内の80歳の女性が入院先で被災。転院先で気管に食べ物が入り「誤嚥性肺炎」となった。一度は回復したが地震2カ月後に再発し4カ月後に亡くなったケースだ。
遺族は「震災による転院がきっかけで体調を崩し、誤嚥が起きた」として関連死認定を申請。しかし、県の合同審査会は「一度回復しており、死亡と地震との因果関係がない」とし、女性は不認定となった。
だが、東日本大震災では、岩手県で震災後に誤嚥性肺炎を発症し、一度は改善した後に再発して死亡した90代の女性が認定された事例がある。この場合は、審査委員の医師が「一度、誤嚥すると繰り返す」と指摘し、震災の影響が認められたのだという。
国による統一基準を急ぐべき
なぜ、こうしたバラつきが起きるのか?
一番の問題点として指摘されているのは、震災関連死の定義が全国で一律ではないことだ。
災害弔慰金支給法などによると、震災関連死は自治体ごとに認定基準を決めて判断することになっている。医師や弁護士などが参加する審査会を設け、医師の診断書を含む客観的資料に基づいて、震災と死亡との関連を審査する。
2年前の熊本県の場合は、発生の4カ月後に県が市町村に基準を示し、24市町村が準用する一方で、2市が独自基準を設けた。
しかし、被災直後の自治体は、膨大な業務に追われ、人的な余裕がない。前出『YOMIURI ONLINE』の記事でも、熊本県八代市の担当者が「国の基準があれば、速やかに公平な認定業務を始められる」と訴えている。
自治体が幅広く救済を考えるか、厳密に判断するかというスタンスの違いで、「救われる人」と「救われない人」が出るのは問題だ。防災や社会福祉関係の専門家の間でも「国が明確な認定基準やガイドラインを示すべきだ」という声が多い。
関連死は、直接死とはまた違う意味で、遺族の心に傷を残す。命の危機を乗り越えた家族をみすみす死なせてしまったと自責の念に駆られる遺族も多いだろう――。
遺族に不公平感や不服を抱かせない基準と、成否に対して丁寧な説明を尽くせる体制づくりが必要だ。
(文=編集部)