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パーキンソン病に効果があるのは、薬物療法?運動療法?コーヒーのカフェイン?

脳内の交通渋滞がパーキンソン病を誘発する

 新たな研究の動きもある。「脳内の交通渋滞がパーキンソン病を誘発する」とする研究成果だ。

 1月3日、東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の長谷川隆文准教授、青木正志教授、大阪大学大学院医学系研究科神経難病認知症探索治療学寄附講座の永井義隆らの共同研究グループは、「DNAJC13遺伝子の変異が原因となる遺伝性パーキンソン病の発症メカニズムを世界で初めて解明した」と『Human Molecular Genetics(電子版)』に発表した(「大阪大学大学院医学系研究科神経難病認知症探索治療学寄附講座」2018年1月17日)。

 発表によると、遺伝子変異によって生じた異常なDNAJC13は、細胞内の輸送システムを渋滞させ、αシヌクレインと呼ばれる悪玉タンパク質の蓄積を引き起こす。その結果、脳内のドーパミン神経細胞の変性・脱落と共に運動機能の低下をもたらす機序をショウジョウバエを使って証明した。この新たな知見は、パーキンソン病の発症メカニズムの理解に大きく貢献し、今後の進行抑制治療薬の開発に寄与すると期待される。

 また「パーキンソン病にiPS移植し、サルで安全性を確認、2018年度内に治験開始する」とする京都大学iPS細胞研究所の高橋淳教授らの研究グループの研究もある。薬物治療では、エーザイ/Meiji Seikaファルマは、新たなパーキンソン病治療薬(サフィナミドメシル酸塩)を2018年度内に国内申請を予定と発表している(「薬事日報」電子版:2018年2月7日)。

パーキンソン病の患者のカフェイン血中濃度は健康な人のおよそ3分の1!

 コーヒーに含まれるカフェインの有用性はどうか?

 順天堂大学の斉木臣二准教授(脳神経内科)らの研究グループは、パーキンソン病の患者108人と健康な人31人のカフェイン濃度を比較したところ、パーキンソン病の患者のカフェイン血中濃度は、健康な人のおよそ3分の1しかないとする研究成果を『Neurology』オンライン版に発表した。

 発表によれば、カフェインには脳の神経細胞を保護する働きがあり、パーキンソン病の患者は小腸でカフェインを吸収する力が弱いため、血中濃度が低くなり、発症リスクが高まる。

 斉木准教授によると、今後は採血による早期の血液診断法を開発し、発症予防や病状の進行抑制につなげながら、カフェインを皮膚から吸収できる薬の開発も進めたいと説明している。ニュープロパッチのようなシールタイプのカフェイン貼り薬が開発される日も近いだろう。

 カフェインとその代謝産物がパーキンソン病を診断するバイオマーカーになる。新たな血液診断とカフェイン補充治療への期待が高まっている(「プレスリリース」平成30年1月4日 )。

パーキンソン病の原因となるアポトーシスを防ぎドーパミン神経細胞を保護

 パーキンソン病にカフェインは有効か? その効果を検証した試みも注目だ。

 中曽一裕准教授(鳥取大学医学部 病態解析医学講座 統合分子医化学分野)は「コーヒーに含まれるカフェインはドーパミン神経細胞を保護する効果があり、クロロゲン酸はパーキンソン病に関連するタンパク質分子のα‐シヌクレインの毒性を軽減する効果がある」とする研究成果を発表した(出典:全日本コーヒー協会)。
 
 中曽准教授は、ハワイの日系男性およそ8000人を対象に30年間行なわれたコホート研究に注目し、「コーヒーを多く飲む人ほどパーキンソン病が発症しにくい」とする研究成果を培養細胞にカフェインを添加する化学実験で検証した。

 発表によれば、培養細胞に毒性物質(MPP+、6-OHDA、ロテノン)を加えてアポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起こし、濃度の異なるカフェインを培養細胞に投与すると、神経細胞の生存にきわめて重要な「シグナル伝達経路(PI3K/Akt経路)」が活性化した。つまり、カフェインは、パーキンソン病の原因となるアポトーシスを防ぐ役割を担い、ドーパミン神経細胞を保護する効果がある事実が確認できた。

 さらに、コーヒーに多く含まれるクロロゲン酸は、パーキンソン病に関連する分子であるα‐シヌクレイン毒性を軽減する効果がある事実が判明した(Neurosci. Lett. 2008; 432: 146-150/J. Clin. Biochem. Nutr. 2012; 1-6 )。つまり、カフェインやクロロゲン酸がパーキンソン病の発症を抑制する効果があることが解明された。

 ただ、培養細胞で行なった実験なので、断言できないが、カフェインはパーキンソン病の予防に関係する可能性がある事実を示唆しているのは確かだろう。

カフェインを摂取しても、パーキンソン病の運動症状は軽減しない!

 だが、一方で「コーヒーのカフェインによってパーキンソン病の運動症状は軽減しない」とする研究もある(「EurekAlert」2017年10月12日『神経学』)。

 カナダのマギル大学などの共同研究チームは、平均4年間罹患していたパーキンソン病の患者121人(平均年齢62歳)を対象に、参加者の半数に1日2回(午前中に1回、昼食後に1回)、カフェイン200mg(1日3杯のコーヒーに相当)を、残りの半数にプラセボカプセルをそれぞれ与え、6ヶ月~18ヶ月にわたって追跡調査した。

 その結果、カフェインを摂取した人の運動症状は、プラセボカプセルを摂取した人と比べて改善が見られず、QOL(生活の質)も有意差はない事実が判明した。研究チームは、カフェインを摂取してもパーキンソン病の運動症状は軽減せず、改善効果がないと結論づけている。

 筆頭著者のロナルド・ポストマ博士によれば、2012年に発表した先行研究は、症状が改善する可能性を示唆したが、比較的短期間の調査であったこと、参加者の血液中のカフェイン量を測定しなかったこと、調査の要求事項を遵守しなかった参加者がいたことなどが結果に影響を与えているとしている。

 ポストマ博士は、より高用量のカフェインを摂取すれば、結果が変わる可能性もあるものの、カフェインはパーキンソン病の運動症状の治療法として推奨できないと説明している。

 さて、長々とパーキンソン病を取り巻く現状を俯瞰してきた。パーキンソン病に効果があるのは、薬物療法? 運動療法? コーヒーのカフェイン? さて、正解は? コーヒーを飲みながら考えてみよう。

 パーキンソン病を克服する医療現場の模索と探求は、昼夜を分かたず営々と続いている。
(文=編集部)

*参考:難病情報センター

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