ノーベル賞を受賞した田中耕一氏の技術を活用しアルツハイマー病の検出法を開発
2種類の新薬の臨床試験が相次いで失敗! だが、失望するのは早計かもしれない。
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター、島津製作所、京都大学、東京大学、近畿大学の共同研究チームは、豪州のアルツハイマー病コホート研究組織のAIBLと連携し、高精度のアルツハイマー病の検出法を開発したと『Nature』オンライン版(2018年2月1日号)に発表した。
共同研究チームは、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一シニアフェローの質量分析技術を活用しつつ、2014年からアルツハイマー病の血液バイオマーカーの研究を推し進めてきた。その研究成果が実り、アルツハイマー病と関係の深いアミロイドβに関連するペプチド(タンパク質の断片)が脳に蓄積している根拠を発症前に検知する検出法を確立した。
この検出法は、現在用いられている脳脊髄液(CSF)検査やPET(陽電子放射断層撮影装置)検査に匹敵する90%の高精度で検出できるのが顕著な特徴だ。しかも、CSF検査やPET検査は、患者への侵襲性が強く、検査費用も高額のため、数千人規模の参加を必要とする臨床治験への適用は困難だった。
わずか5ccの血液を検査するだけで早期・正確・確実・安価にアルツハイマー病を診断
しかし、この検出法なら、血液(0.5cc)を採取し、検査するだけで、発症する前にアルツハイマー病を早期に正確に、しかも負担を軽く、安価に検出できる絶大なメリットがあるという。
研究チームの金子直樹・島津製作所田中耕一記念質量分析研究所主任によると、この検出法は、アミロイドβに関連する複数のペプチがそれぞれ質量が微妙に違う特徴を利用し、質量分析技術を駆使して質量が異なるペプチドを正確に見分ける。
つまり、脳にアミロイドβが蓄積していると、蓄積していない時よりも、血中の特定のペプチドが少なくなる。この原理を使い、標的となるペプチドの比率を調べれば、脳に蓄積しているアミロイドβの状況を判断できる。
田中シニアフェローは「治療薬や予防薬の臨床試験をする際、分析サービスを提供できれば」と期待している。
日本の65歳以上の認知症患者数は、約462万人(2012年)。そのおよそ6~7割はアルツハイマー病と推定される。近い将来、この検査法がさらに進化すれば、アルツハイマー病の根本的な治療薬や予防薬の開発に大きく貢献する。その驚異のポテンシャリティは計り知れない。今後の動向を見よう。
(文=編集部)