日本だけが「子宮頸がんワクチン」の恩恵を受けられないのは、医療行政の科学的な視点の欠如
最後にHPVワクチン、俗に「子宮頸がんワクチン」と呼ばれているワクチンについてです。
このワクチンは子宮頸がんの前がん状態を減らすことが示されていますが(BMC Public Health. 2014;14:867)、がんの発症には何年という長い時間がかかるために「がんそのものを減らす」エビデンスはありません。
しかし、B型肝炎ウイルスワクチンが肝臓がんを減らすのに寄与したように(そしてそれをデータとして示すのに何十年もかかったように)、時間とともにこのワクチンががんを減らす効果が明らかになるのは時間の問題でしょう。
世界各国でワクチンの恩恵を受けて前がん病態が減っています。日本だけがこの恩恵を受けられないのであれば、それは日本の医療行政の科学的な視点の欠如と言わざるを得ません。
みなさんにとって気になるであろうワクチンの副作用についても、何十万という女の子を長期フォローした研究で子宮頸がんワクチンの接種者と非接種者では差がありませんでした(J Adolesc Health. 2010;46:414-21、JAMA. 2015 ;313:54-61)。この点も前掲の拙著で詳しく議論したので、詳細をご覧になりたい方は参照してください。
子宮頸がんワクチンに副作用がないわけではありません。子宮頸がんワクチン後に重篤な健康被害を受けた方がおいでのかたも承知しています。
しかし、リスクの双方向性を考えた場合、ワクチンを接種した場合としない場合では、したほうが得られる利益は遥かに大きなものです。
近藤誠氏はワクチンで防御できる感染症のリスクを過小評価している
まとめです。近藤誠氏は前後関係と因果関係を混同しています。そして、リスクの双方向性を理解せず、ワクチンのリスクを過大に評価し、ワクチンで防御できる感染症のリスクを過小評価しています。
近藤氏の医学論文の解釈には重大な誤謬が数多く存在します。知らずにやっているとしたら医学者の能力に重大な欠落がありますから、彼の書物は信用に値しません。知っていてやっているのであれば近藤氏はとても悪質なデマゴークなので、やはり信用に値しませんし、その場合は医学という学問や患者への誠意を著しく欠いているのですから、この業界から即刻退場願うよりほかありません。
私の「恐怖」への評価は以上です。
『近藤誠氏「ワクチン副作用の恐怖」は真に妥当性のある意見なのか?~批評(1)』
『近藤誠氏「ワクチン副作用の恐怖」は真に妥当性のある意見なのか?~批評(2)』
岩田健太郎(いわた・けんたろう)
神戸大学都市安全研究センター感染症リスクコミュニケーション分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授
同大学医学部附属病院感染症内科および国際診療部