漱石最晩年の恋愛模様
冒頭で紹介したNHKドラマ『漱石悶々~夏目漱石最後の恋 京都祇園の二十九日間~』では、漱石の最晩年の恋愛模様が描かれた。
1915(大正4)年の春、重い神経衰弱と胃潰瘍に苦しむ漱石(48歳)は京都で静養する。投宿した木屋町の名旅館・北大嘉(きたのだいか)で出逢った美貌の多佳(36歳)にひと目惚れ。「春の川を隔てて男女哉」と詠みつつ、いつしか療養などは上の空、日々想いを募らせる。
多佳を焦がれる熱い想いを抑え切れないが、多佳を口説くイケメン実業家や老舗旅館の主人らを尻目にハラハラ・ドキドキと気を揉むばかり……。百戦錬磨の祇園の女にもて弄ばれても拒めない切ない恋心を悶々と綴った京都の29日間。その翌年、漱石は49年の生涯を閉じる。漱石の一途さがジンとくるラブストーリーだ。
漱石は人生に何を求めたのか。何を見つけたのか? 則天去私(天に則り私を去る)の境地に達したのか? 漱石は巧みな旅役者ではなかったか? 粋狂な風流人ではなかったか? 漱石をまた読んでみたくなった。
(文=佐藤博)
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。