トランプ大統領就任で「オバマケア」は廃止あるいは骨抜きに?(Christopher Halloran /Evan El-Amin / Shutterstock.com)
2017年1月20日、共和党のドナルド・トランプ氏が、第45代米大統領に就任する。
トランプ政権が標榜する、孤立主義、分断主義、排外主義、大衆迎合主義などの世界戦略、いわゆる「トランプポノミクス」が、2017年以降、米国社会と世界情勢をどのように変質させるかが注目を集めている。
トランプポノミクスは、アンチ・オバマの財界主導経済や医療政策から、親ロシア政策によるシリア停戦、中国への牽制外交、日米安保の修正化、反TPPや高関税課税による保護貿易、異民族の排斥、反環境まで、予測不能の複合的な要因が混在しているかに見える。
2017年以降、米国単独覇権の崩壊と世界の多極化が強まる状況がある。さまざまなリスクを抱えたトランプポノミクスの不確かな未来に懸念は拭えない。そこで今回は、トランプ政権によって「米国の医療制度はどう変わるのか」を冷静に考察してみよう。
「オバマケア」とは何だったのか?
米国の医療は自由診療が基本であるため、医療費が高額になることから、民間医療保険に加入している人が多い。だが、国民の6人に1人(約17%)は、保険料の支払いが困難なため、メディケア(高齢者向け公的医療保険)にも、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)にも加入できない中・低所得者だ。
医療保険に加入できないので、病状が悪化するまで医療を受けられない。その帰結として、過剰な医療支出が累積し増大化した。このような苦しいジレンマの解決に挑んだのがバラク・オバマ大統領だ。
2010年3月、約5000万人もの無保険者をなくすために、オバマ大統領は医療保険制度改革法(オバマケア) を成立させ、2014年1月1日からオバマケアの保険適用がスタート。連邦議会予算局は、2014年からの10年間で、保険加入者は約3100万人、加入率は83%から94%に増加するものの、約9400億ドル(約110兆円)の導入コストを試算している。
オバマケアは、日本の国民健康保険のような公的保険ではない。民間の安価な公的医療保険への加入を国民に義務づけ、病気の早期治療や予防による医療支出の抑制を狙っている。保険料の支払いが困難な低所得者に補助金を支給し、国民の9割以上の保険加入をめざしている。
「オバマケア」にも数々の課題が
しかし、オバマケアの課題もある。加入を怠ると、年収の2.5%に当たる罰金を支払わなければならない。保険料支払いが難しい低所得者は、所得に応じた補助金が支給されるものの、補助金給付は増税を招くため、一般納税者は不満を募らせている。
また、妊婦検診や小児医療など、特定の年齢層に限られる医療や薬物治療カウンセリングなどの特殊なサービスを受けるための保険料負担も加わる。健康状態の良くない中・低所得者の保険加入が増えたため、保険料の支払いが急激に膨らんだ。
その結果、オバマケア導入前から任意の医療保険に加入して納税していた高所得の白人中間層の不公平感や増税への不満が強まり、オバマケアに厳しい批判の目が注がれ始めた。
このようなオバマケアの矛盾に警鐘を鳴らし、オバマケアの撤廃を掲げたのがトランプ氏だ。