左利きは睡眠障害・斜視・聴覚障害に罹りやすい?
この傷跡は、ホモ・ハビリスの個体が「右利き」であることを示唆しており、それは同時にネアンデルタール人以前のヒトにあって「右手の優位性」を示した初めての有力な証拠として耳目を集めている。
「この知見は、脳の非対称性についても多くのことを示唆している」と、Frayer教授はいう。
「ホモ・ハビリスが類人猿よりもわれわれ(現生人類)に近いことは以前からわかっていたけれども、彼らにも脳の非対称性がみられ、それが利き手にも拡大されたという点が重要な鍵となるわけだ」
ヒトの脳は、二足歩行をはじめ、道具を使いこなし、言語を操るようになる過程で飛躍的に発達し、その過程で右利きが増えたとされている。
一方、左利きになる理由としては、遺伝説や胎内・出産時の右脳活発説など諸説あるが、原因はいまだ解明途上にある。
利き手と脳がクロスする仕組み(右手と左脳、左手と右脳)で密接に繋がっていることはよく知られている。また、利き手と左右の脳の違いを病気という観点から比較すると、「左脳よりも右脳のほうが傷つきやすい」という特徴も判明している。
たとえば、左脳で卒中が起きて右半身不随になる人の割合は、左半身不随になる人の約4倍にも上るそうだ。脳が受ける損傷も、左脳のほうが約2.5倍は多いとか。
一方、左利きの人の場合は「睡眠障害」や「斜視」「聴覚障害」になる確率が、右利きの人よりも約2.5倍は高いという。さらに、あらゆる作業を左手の行なう人では免疫系の病気(アレルギーや花粉症など)に罹る割合が、やはり右利きの約2.5倍にもなるといわれている。
ホモ・ハビリスをめぐる従来の研究でも、200~250万年前の時点で59%が右利きだったとされてきた。さらに新たな知見を導き出したFrayer教授はこう述べている。
「利き手と言語はそれぞれ異なる遺伝子システムによって操られているが、いずれの機能も左脳に由来するため、双方には弱いながらも関連性がある」
「一つの化石標本から明確な結論を導くというわけにはいかないが、今後の研究が進めば、右利きや大脳皮質の再編成、そして言語能力が人類の起源におよぼした要素の重要性がより明らかになってゆくだろう」
そんな長い長い進化の歴史を知れば、「たかが利き手、されど利き手」という言い方はたちまち霧散してしまう。読後に思わず、じっと手を見続けるという方も少なくないだろう。
ちなみにヒトの約9割は右利きだが、類人猿ではまだ半々に分かれていたそうな。
(文=編集部)