なぜビル火災だけで人骨は粉々に燃え尽きたのか?
さて、人骨のDNA鑑定で注意すべき点がある。それは、ジェット燃料の最高燃焼温度と人骨の燃焼温度の差異だ。
北棟と南棟が崩壊した原因は、ジェット燃料による火災が原因とされる。航空機に搭載されるジェット燃料の最高燃焼温度(Maximum burning temperature)は、およそ980〜1090℃。一方、人骨の燃焼温度は1675℃だ。
人骨は、骨の約40%を占める有機成分と60%を占める無機成分(リン酸カルシウム85%、炭酸カルシウム10%、リン酸マグネシウム1.5%など)から成る。骨の中心部にある赤血球・白血球・血小板などを生成する造血細胞(有機成分) は、およそ500℃以上で燃焼する。だが、無機成分の主成分であるリン酸カルシウムの融点は1675℃なので、この温度以下では人骨は完全燃焼しない。言い換えると、この融点以上で完全燃焼すれば、人骨は粉々に灰化し微粉末化する。
つまり、ジェット燃料の最高燃焼温度980~1090℃では人骨の完全燃焼温度に達しないので、人骨は灰化も微粉末化もしないのだ。さらに、ビル火災と鋼鉄の融点の矛盾もある。 北棟と南棟の構造体に使われた鋼鉄は、1000℃で数時間さらす耐火基準を満たしていた。しかも鋼鉄の融点は1536℃なので、ジェット燃料の最高燃焼温度980~1090℃では鋼鉄の融点に達しない。
以上のことから、ジェット燃料による単純なビル火災だけでは、人骨も鋼鉄も溶解しないのは明らかだ。では、なぜ融解したのか?
明らかな反証が挙がらないかぎり疑念は決して消えない
筆者は、テロ事件前後の状況や動向を根拠に提示されている数多くの陰謀説、恣意的な証言、意図的に偏向した情報判断には与(くみ)しない。
たとえば、仕掛けられていた爆薬による制御解体、南棟の20階と30階の爆発を捉えたビデオ映像、ペンタゴンに突入した巡航ミサイルの目撃など、その言説を裏づける何らかの傍証(間接的な証拠)が存在しても、不審点や疑惑点に対する確かな反証を挙げなければならない。
テロ事件が引き金になり、アフガニスタンとイラクへの対テロ戦争の道が開かれ、両国に多大な犠牲を及ぼした。PTSD(心的外傷後ストレス障害)や呼吸器疾患など、消防・捜索・救援に当たった消防士、警察官、救急隊員、市民らの健康被害も深刻化している。報復戦争は、米国の国益を世界に誇示し、軍需産業を潤した。これらの事実は決して揺るがない。
しかしながら前述した通り、ジェット燃料による火災と融点の矛盾だけは、明らかな反証が挙がらないかぎり疑念は決して消えない。ビルの火災時に燃焼温度を急変させる、あるいは加速させる何らかの物理的・化学的な要因が深く関与している可能性を否定できないからだ。
どのような承服しがたい仮説も、反証によって覆されるまでは正しい仮説とみなす。論証を積み重ねて真実に肉迫する。それが科学や医学の公正なルールだ。それが科学者や医療人のクレド(信条)であるべきだ。
科学者、法医学者、建築工学のエキスパート、ジャーナリストなどの知見と勇気、それだけが9・11テロ事件の真相に迫れると信じたい。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。