『営業部長 吉良奈津子』(画像はフジテレビの公式HPより)
松嶋菜々子さん主演の新ドラマ『営業部長 吉良奈津子』(フジテレビ系)がスタートした。育休明けのヒロインが“仕事と家庭の両立”に奮闘する姿を描くという今日的テーマが注目されている。
松嶋さん演じる主人公・奈津子は、40歳手前で結婚するまでは広告代理店の売れっ子クリエーティブ・ディレクター。しかし、結婚・出産、3年の育児休暇を経て念願の職場復帰を果たしたものの、配属されたのは不慣れな営業職で、思わず自信を失ってしまう……というストーリーだ。
第一話の冒頭、部長職ながら不本意な営業開発部に配属された奈津子に対して、かつての上司が厳しい現実をこう突きつける。
「君がオムツを替えていた3年は、広告業界にとって非常に大きな3年だった」「会社は子どもを生んだ女性を積極的に受け入れているが、腹の底では不満を抱いている者も少なくない」「何年も休んでいた者と毎日汗をかいていた自分たちとを一緒にしないでくれ、と」
3年前は奈津子のアシスタントだった高木啓介(松田龍平)が、今ではクリエイティブディレクター。高木には「昔の人」扱いされる始末だ。奈津子は、業績不振にあえぐ部下たちにノルマ達成の激を飛ばすと、自分は息子のお迎えのため6時で退社。部下たちには「午後6時のシンデレラ」と揶揄されて散々だ。
育児と仕事との両立を巡り、旦那と衝突する奈津子――。ヒロインの奮闘ぶりはお約束事としても、現実社会のリアリティがどこまで描き切れるかについては、育休明け彼女を「受け入れる側の人々(=同僚像)」がいったいどう描かれるにもかかっている。
なぜならば、働く女性の今日的な難題をリアルに描くのであれば、“逆マタハラ”の人間模様も避けては通れないからだ。
ドラマでは「逆マタハラ」も描けるか?
「逆マタハラ」。育休や子育て支援制度を利用する社員が増える一方で、その仕事上のシワ寄せが他の社員におよぶ不公平な現象を総称して、こう呼ばれている。
『営業部長 吉良奈津子』でも「オレも子ども生みたい」とぼやく男性社員が登場する。
事実、最近のweb上には“女の敵は女”的な多勢のマタハラ報告に紛れつつも、ずばり「産休明けの人と仕事で関わるのが嫌でたまらない」と言い切る逆マタハラの被害者の意見も書き込まれ、賛同する声も少なくない。
たとえば、4人一組×3班で競い合っている部署があったとしよう――。A班の既婚女性が産休で抜けた際は人事異動で1人が補充されたものの、彼女の職場復帰後はその人材も戻されて元の4人組体制で再始動した。
しかし、彼女ハ昔ノ彼女ナラズ……。ただでさえ時短勤務の身でありながら、子どもの急病や預かり先でのトラブルなどが重なって、実態は“半人前”扱い。産休・育休時の代打要員が優秀な派遣社員であった日には、班内のグチや不満の視線が浴びせられ、世の“奈津子”は居たたまれなくなる。
ただし、これを典型的な“いじめ”とばかり断罪できないのが、現代社会の難しさだろう。
職場に復帰したかと思えば、子ども自慢や子育ての苦労談を吹聴し、メールチェックの合間に仕事をしているような主客転倒ぶりで周囲を苛立たせ、育児を免罪符に休暇を遠慮しない……という無神経な“奈津子”も世の中には結構いるからだ。