遺伝子組み換え作物は本当に安全!?
5月17日、米科学アカデミー(National Academy of Sciences:NAS)は、「遺伝子組み換え作物は人間や動物が食べても安全である、健康被害の心配はない」と結論づける衝撃の報告書を機関誌『米国科学アカデミー紀要』に発表した。
報告書によると、トウモロコシや大豆などの遺伝子組み換え作物を対象に、過去20年間に及ぶ約900件の研究成果と約800人の専門家などの見解を包括的に分析・評価した。
その結果、「遺伝子組み換え作物は、がん、肥満、胃腸病、腎臓病、自閉症、アレルギーなどを引き起こす証拠はない。長期間の影響も含めて人体に健康被害を及ぼす証拠はない」と断定。
「遺伝子組み換え作物は、農作物の収量に影響を与えないが、害虫や雑草から農作物を守り、農薬の削減や農家の収入増加などの経済波及効果が大きい。植物や昆虫の多様性は失われない。野生種の交配から生まれる作物に遺伝学的なリスクはない」と明解に論述している。
さらに、日本や欧州連合(EU)が採用している遺伝子組み換え作物の食品表示義務化は、「国民の健康を守るためとはいえ、正当化されてはならない。科学的な評価だけでは結論は出ない。社会的・経済的な観点からも検討を要する」と警鐘を鳴らしている。
米科学アカデミーは、約5500名の会員を擁する学術機関の全米アカデミーズに所属する民間非営利団体。政府や議会から独立した公正なポジションに軸足を置き、1世紀にわたって米国の科学技術政策に提言を重ねてきた。
アカデミー会員は、自然科学、社会科学、人文科学、医学の分野に貢献するプロボノ(ボランティア)活動を行いながら、エビデンスに基づく科学論文を『米国科学アカデミー紀要』に公表し続けている。
1914年に創刊された『米国科学アカデミー紀要』は、特に生物学や医学の分野で学術的にインパクトの大きい論文が多い。1994年から2004年までの引用論文数は133万8191編。『ネイチャー』『サイエンス』に並ぶ世界最高峰の総合学術雑誌への評価もリスペクトも高い。
政府やアカデミーから資金援助を一切受けず、論文の掲載収入だけで運営されている。
遺伝子組み換え作物とは何か?
トウモロコシ、大豆、トマトなど商業栽培されている植物に遺伝子操作(Genetic Modification)を行い、新しい形質を持つ遺伝子を人工的に改変して開発した作物。それが、遺伝子組み換え作物だ。
除草剤耐性(除草剤の影響を受けない)、病害虫耐性(害虫や病害の影響を受けない)、貯蔵性増大(備蓄しやすい)などの特性があるため、面積当たりの生産量や収穫量が高く、生産効率が安定しているので、生産者や流通業者が得る経済的メリットは絶大だ。
1990年代に米国、アルゼンチン、インドなどの商業栽培が本格化。栽培国と作付面積が年々増加し、現在は大豆、トウモロコシ、綿のおよそ9割以上が遺伝子組み換え作物だ。2009年に青いバラ (サントリーフラワーズ)が開発され、日本は商業栽培国になった。
農林水産省によれば、遺伝子組み換え作物の安全性の評価は、生物多様性への影響を規制するカルタヘナ法をはじめ、食品安全基本法や食品衛生法に基づいて行なわれ、安全性が確認された作物だけを輸入・流通する仕組みだ。
厚生労働省と内閣府食品安全委員会によると、2016年3月時点で、ジャガイモ、ダイズ、テンサイ、トウモロコシ、ナタネ、綿、アルファルファ、パパイアの8作物304種類の安全性が確認されているという。