食べ物が大便として排出されるまでに約24時間~30時間かかる shutterstock.com
大腸がん予防のポイントとなる排便=お通じの仕組みについて説明してみる。
ヒトはパンのみに生きるにあらず――。しかし、食べなければ生きられないなら、賢く楽しく美味しく食べたい。快食・快眠・快便こそ、生涯健康を支えるバックボーンだ。
お通じの話に入る前に、消化から排便までのメカニズムを、ざっとおさらいしよう。ヒトの消化管は、食道、胃、十二指腸から、約5~6mある小腸から1.5mの大腸へつながっている。
食べ物は、かみ砕かれて食塊になり、食道を通って胃に送られる。胃は、食べ物が入るとゴムのように伸縮し、1.5~2リットルほどの容量の食塊が入る。食塊は、強酸性の胃液(塩酸)の撹拌と胃の蠕動運動によって、消化されやすいドロドロ状態になる。食べ物が胃の中に滞留する時間は、米やパンなどの炭水化物が2~3時間、肉や魚などのタンパク質が4~5時間、脂肪が7~8時間となっている。
ドロドロ状態の食塊が胃から十二指腸に移動する時は、肝臓で作られ胆のうに蓄えられていたアルカリ性の胆汁が十二指腸へ流れ込み、胃酸を中和する。
十二指腸の粘膜からは、セクレチンやコレシストキニンなどのホルモンが多量に放出される。これらのホルモンは膵臓に働きかけて、膵液、トリプシン、キモトリプシン、アミラーゼ、リパーゼなどの消化酵素の分泌を盛んに促す。トリプシンとキモトリプシンはタンパク質を、アミラーゼはデンプンを、リパーゼは脂肪を、アミノ酸やブドウ糖などの栄養素に分解し、小腸で吸収しやすい形に変える。
このように分泌される胃液、胆汁、膵液の量は1日約6リットル。これに食べ物の水分や唾液、消化酵素がプラスされ、9リットルもの栄養素を含む液体になる。9リットルのうちの7リットルは、栄養素とともに小腸で吸収される。
小腸の内壁には、絨毛(じゅうもう)と呼ばれる小突起におおわれた輪状のヒダがある。この絨毛の細胞膜から消化酵素が分泌され、食べ物はさらに分解されて、ほとんどが小腸で消化・吸収されるのだ。消化・吸収されない食物繊維などが混ざった残りの2リットルは、水のような状態で大腸をめざす。
水分や電解質を吸収するのが大腸だ。大腸に到達した食べもののカス(食物残渣)の9割が水分。食べもののカスだけが固まり、便になり直腸から排泄される。食後およそ24時間~30時間。こうして排泄までの長い道のりの旅が終わる。
便意はなぜ起きるのか?
では、どのようにして便意を感じるのだろうか? 簡単にいえば、直腸に便が溜まると、その重みで直腸壁が伸展し、「ウンチをしたい!」という刺激が排便中枢から大脳に伝わって、便意を感じる。つまり、便意が起きると、腹筋の収縮、横隔膜の下降によって腹圧が高まり、便を押し下げる。その結果、内肛門括約筋と外肛門括約筋が緩み、便が排出される。
排便時の仕組みをもう少し説明しよう。ヒトは体を横たえたり、直立している時は、恥骨直腸筋と浅部肛門括約筋の働きによって、直腸と肛門のなす角度(直腸肛門角)が鋭角になるため、直腸に便が溜まっても簡単に排出しない(フラップバルブ・メカニズム)。内肛門括約筋と外肛門括約筋が収縮するので、肛門は閉じたままなのだ。
しかし、朝起きて立ち上がったり食事を摂ると、起立反射や胃結腸反射が起きるため、便が直腸に送られる。さらに、トイレでしゃがんだ姿勢をとると、体が前に折り曲がり、直腸と肛門のなす角度(直腸肛門角)が鈍角になるので、便が出やすくなる。
排便は、環境や精神状態に大きな影響を受ける。旅行先や緊張する場面など、ストレスが強い時は便秘になりやすく、旅行先から帰って我が家のトイレに入った時や緊張がほぐれた時は、排便がスムーズになる。これは、だれもが経験しているだろう。
つまり、ストレスが強い時は交感神経が優位になり、リラックスした時は副交感神経が優位になる。大脳は環境や精神状態よって排便反射を判断し、コントロールしているのだ。排便の準備が整うと、大脳からの抑制がなくなるので、直腸肛門角も緩やかになり、肛門も開き、直腸の収縮によって排便される仕組みだ。
ただ、排便のメカニズムは、中枢神経をはじめ末梢神経、結腸壁内神経叢、腸管運動、心因的要素などが複雑に絡み合い、まだすべてが解明されてはいない。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。