妊娠中にダイエットをする妊婦もいる? itoguchi/PIXTA(ピクスタ)
TVにはスリムな女性タレントが次々登場し、巷にはダイエット情報が氾濫。小学生までも「太りたくない」と食べたいものを我慢するご時世だ。そんな日本女性の「やせ志向」がより顕著になっていることが、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」で分かった。
調査では、2013年11月時点で20歳以上の男女6,030人のデータを分析。「体重kg÷(身長m×身長m)」で体格指数「BMI」を算出し、その判定基準により18,5未満を「やせ」、25以上を「肥満」と定義して集計した。すると、18,5未満の「やせ」とされる女性の割合は12,3%で8人に1人となり、1980年以降では最も多くなったという。
「やせ」の女性の割合を年代別に見ると、20代が21,5%と最も高い。その後は50代の8,5%まで年を重ねるごとに減っていくが、60代は10,3%、70代は11,9%と再び上昇する。
小さな赤ちゃんがメタボ体質に
「スリムでなければ美しくない」という風潮の中では、BMIで「普通」「やせ」と判定されても、さらに体重を減らそうとダイエットを繰り返す人も多い。特に、妊娠出産を控える若い女性の「やせ志向」は、次世代の子どもにまで健康リスクをもたらす危険性があると危惧されている。
やせすぎの女性が子どもを産んだ場合、赤ちゃんは低栄養状態で生まれてくることが多い。わが国で体重が2,500g未満の低出生体重児が生まれる割合は、1970年代では5,5%だった。それが1993年には6,7%になり、2010年には9,6%と増加。10人に1人という低栄養状態の出生率は、先進国の中で極めて高い。
このような状態で産まれてくる赤ちゃんは、母親の胎内で十分に栄養をもらえず、飢餓状態にさらされている。そのため少ない栄養を効率よく摂取し、体に蓄積せよという指令が脳にインプットされてしまう。それによって、通常体重で産まれた人より、将来的に肥満や糖尿病などの生活習慣病になるリスクが高くなるのだ。つまり、生まれながらに「メタボ体質」になってしまう。
胎児期の栄養不足が一生の負担に
実はすでに20年以上前から「生活習慣病を引き起こす素因の70%は胎児期や新生児期の栄養不足であり、後天的な影響は30%にすぎない」という学説がある。英・サウザンプトン大学医学部教授のデイビッド・バーカー氏が唱えた成人病胎児期発症説だ。彼の研究グループによれば、栄養状態の悪い母親から生まれた小さい赤ちゃんは、成人後に心筋梗塞を多く発症したり、心臓病による死亡のリスクが高かったりすると判明。現在ではこれが定説になりつつある。
妊娠中に母親が摂取する栄養が不十分だと、低出生体重児が生まれる可能性が高くなる。胎児の健やかな成長のためにも適切な食生活を心がけるべきなのだが、妊娠してから急に食習慣を変えるのは難しい。もともとエネルギー摂取量の低かった女性は、妊娠中もエネルギーが不十分な食生活を送る傾向が強いという。
特に出産前の女性は、わが子に病気のリスクを負わせないためにも、普段から栄養バランスのとれた食習慣を身につけて欲しい。スリムなほど美しいという画一的な価値観も見直されるべきだが、家庭や学校教育でも、何をどう食べればいいかという「食育」にもっと力を入れてもいいのではないだろうか。
(文=編集部)