runa / PIXTA(ピクスタ)
現代多くの人たちが悩まされているアレルギー疾患。特に毎年の花粉症の季節は、目や鼻のご機嫌うかがいが時候の挨拶になっていると感じるほどだ。
その治療の実態について、厚生労働省研究班(アレルギー疾患対策の均てん化に関する研究班)と日本アレルギー学会がこのほど、大規模な調査を実施した。期間は2014年2~3月。有効回答は医師1,052人、患者8,240人と、この種の調査としては例をみない規模のものである。
その結果、日本アレルギー学会などが提唱する「アレルギー治療のガイドライン」から外れた治療をしている医師が珍しくないことが分かった。主治医の指導が、推奨されていないこともあるという。巷でしばしば行われているという「ガイドライン外」の治療例は、以下である。
●外用剤は「できるだけ薄くのばす」?
アトピー性皮膚炎などで処方される外用剤は、治療段階に応じて適切な量を使用することが重要。「できるだけ薄くのばす」と、日によって使用量が変動したり、常に少なめになったりするため、推奨されていない。
しかし今回の調査では、医師の23%がステロイド薬を「できるだけ薄くのばして塗るよう指導」しており、患者側も56%が「医師からそう指導されている」と回答している。
●入浴時の石けん使用は禁止?
ガイドラインでは「石けんが皮膚症状を悪化させる」とは考えておらず、標準的には石けんを禁止していない。
ところが、医師の8%がアトピー性皮膚炎の患者に入浴時の石けん使用を禁止しており、患者の12%も「入浴時に石けんを使用しない」よう主治医から指導を受けていると回答。「石けんを使うように」と指導されている患者のほうが多い(成人29%、小児33%)ものの、医師によって正反対の指導が行われていれば、混乱を招く可能性もある。
●発作が月1回以上でも「予防薬不要」?
喘息診療では、発作時に使う発作治療薬と、発作がない時に使う発作予防薬の2種類を明確に分けている。月に1回以上発作があり、喘息のコントロールがうまくできていない場合は、発作予防薬を使うのが標準治療とされている。
しかし実際には、発作が月1回以上ある患者の17%は予防薬を使用しておらず、週1回以上発作がある患者に絞っても、15%が予防薬を使用していない。
●アレルギーの専門医が少ないのも一因か
他にも「いまだに卵アレルギーを理由に鶏肉と魚卵を除去するケースがある」などガイドラインとの乖離が指摘された。なぜ医師の間に誤解があるのか?
実はアレルギー疾患は患者数が多いため、一般の診療所で対応するケースが多い。さらに「アレルギー科」をうたう医療機関でも、アレルギー専門医資格を持つ医師がいるとは限らない。今回の調査でも、学会が認定する専門医がいるのは「アレルギー科」の3割でしかなかった。驚きの結果だが、こうした現状も治療にばらつきが出る一因と考えられている。
現在ほとんどのアレルギー疾患は、適切な治療をすれば症状は抑えられ、健常者とほぼ同じ生活ができるまでにコントロールできるという。しかし依然として症状の重い人が少なくない。アレルギーは日常生活を送るうえで辛い疾病であり、不要な我慢を強いられていたとしたら患者が気の毒だろう。
しかし一方で、患者側にもいまだに「ステロイドを拒否」「根拠のない民間療法を信じる」などの問題があると指摘されている。
医師の治療水準を上げて行くことが急務だが、こうした状況をふまえて、患者も一度「標準治療」がどんなものかを勉強しておくべきかもしれない。特に主治医がガイドライン外の治療をするときは、理由をよく話し合い、納得して進めるべきだろう。
(文=編集部)