【病気の知識】
監修:札幌中央病院内科グループ
動脈瘤というのは、動脈の壁が限られた範囲内で拡張してこぶのようになっている状態のことです。このこぶ(血管の拡張)が、胸部や腹部の大動脈にできたものが大動脈瘤です。
動脈の壁は内側より内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。この3層のまま拡大したものを「真性大動脈瘤」、動脈壁の一部が障害され血液が血管外に漏れ出ている状態のものを「仮性動脈瘤」、内膜が破れ血液が中膜層に流入していて血管壁が2層に分かれている状態のものを「解離性大動脈瘤」と呼びます。
原因としては先天性、動脈硬化症、代謝性、炎症性などがありますが、最近は長寿化や生活習慣などより動脈硬化症によるものが最も多くなっています。50歳以上の男性に多く発生する疾患です。
動脈瘤は、こぶが存在する場所により、以下のように分類されています。
①胸部大動脈瘤
●解離性大動脈瘤A型:解離(内膜が破れ血液が中膜層に流入していて血管壁が2層に分かれる状態)が上行大動脈まで及ぶもの。
●解離性大動脈瘤B型:解離が下行大動脈に限局しているもの。
②胸腹部大動脈瘤:下行大動脈から腹部大動脈まで及ぶもので、原因のほとんどが動脈硬化症です。
③腹部大動脈瘤:腎動脈より下方が多く、腸骨動脈まで及ぶこともあります。原因の多くが動脈硬化症。
大部分は無症状ですが、激しい胸痛や腹痛もしくは腰部痛のあるときは動脈瘤の破裂が迫っている状態なので、緊急処置、手術を要する状態です。自覚症状としての痛みは、心筋梗塞あるいは胃潰瘍十二指腸潰瘍の穿孔、腰痛症などと非常によく似ています。
①胸部大動脈瘤
●解離性大動脈瘤:急に起こる激烈な胸痛や背部痛があるときは、破裂を起こして致命傷になることもすくなくありません。緊急手術の対象となります。
●動脈硬化症:無症状のことが多いが、破裂は解離性動脈瘤と同じ症状です。
②胸腹部大動脈瘤:ほとんどが動脈硬化症の動脈瘤で、破裂すると致命的になります。
③腹部大動脈瘤:ほとんどが無症状です。腹部の激痛時には動脈瘤の破裂も可能性としてあるので注意が必要です。破裂によりショック状態となり重症です。
検診やその他の病気で医療機関を受診したときに、胸部や腹部のエックス線検査によって診断されることが多い病気です。エックス線検査での石灰化像の存在、心雑音血管雑音の聴取、胸腹部の動脈瘤の触知などにより診断されます。多くは無症状ですが、激しい痛みがある場合に医師は緊急を要する疾患かどうかの判断をします。問診、血圧、脈拍、心臓の聴診所見、動脈瘤の触知、貧血の有無、ショック状態の有無、心電図所見などより判定していきます。
●エックス線検査:エックス線写真の中央に、心臓の拡大や大動脈の拡大が見られます。また、動脈壁の石灰化像の存在は動脈硬化症の変化が強いことをしめします。
●心エコー検査(心臓超音波検査):胸壁上の探子より超音波を出し、これにより心臓の運動(機能)の状態、心房心室の壁の厚さ、各弁の動き方、弁口の面積(狭窄の有無)、大動脈弓部の拡大の有無などを調べます。痛みや苦痛を伴わない検査で、短時間でできる有用な検査です。
●腹部エコー検査:腹壁上の探子より超音波を出し、これにより腹部大動脈瘤の状態、範囲、動脈壁の厚さなどを調べます。
●CT検査エックス線:CTによる断層撮影にて、胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤そのものの確定診断が可能です。造影剤を用いるとより確実な診断となります。
●血管造影検査:造影剤を用いて血管造影を行い、血管内径の拡大、解離の有無などを調べます。
とにかく破裂する前に治療することが大切です。破裂は致命的になりやすいので(約50%)、代謝性、炎症性などのものは原因疾患の治療が必要となります。
●内科的治療:薬による大動脈瘤の治療法はありませんが、血圧のコントロールや高脂血症などの治療が行われます。
●外科的治療:大動脈瘤の基本的な治療は手術です。大動脈瘤がある一定の大きさ異常になる前に、手術で切除することが望まれます。手術は、動脈瘤を起こしている血管を切除し、人工血管に置換する方法で行われます。かなり難しい手術ですが、破裂してからの手術よりも予後は良好です。
動脈硬化症が最も多いので、高血圧の予防、高脂血症の改善、糖尿病のコントロール、禁煙、肥満の改善、高尿酸血症の改善、ストレスマネージメントなどが必要です。とくに、食生活の変化と高齢化が進むなかで、動脈硬化と密接に関係しているこれらの改善と適度の運動を心がけることが大切です。
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