【病気の知識】
監修:札幌中央病院内科グループ
心臓は心筋と呼ばれる特殊な筋肉よりできていています。握りこぶし大の大きさで、成人の重さは200〜300gです。内側は4つの部屋に分かれ、左右の心房と、左右の心室とからなっています。
心臓の1回の収縮で拍出できる血液量は60~70mlで1分間に60~80回拍出しています(1分間に約4~5リットル)。心臓からの血液の流れは、左心室より大動脈をへて全身を回って右心房に戻るまでの体循環と、右室より肺動脈へ出て肺を回って左心房の帰る肺循環に分かれます。酸素をたくさん含んだ動脈血の流れる肺静脈から左心房、左室、大動脈、各臓器までを左心系と呼びます。また、各臓器からの炭酸ガスを多く含んだ静脈血が心臓に向かって、下大静脈、右心房、右室、肺動脈までを右心系と呼びます。
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下して体の各部分が必要とする血液を拍出できない状態です。心不全には、その発症の経過より急性心不全と慢性心不全があり、起こり方と部位により左心不全と右心不全に分類されます。
急性心不全とは、急に発症した心不全のことで、急性心筋梗塞、心筋炎、肺塞栓症などの疾患でみられ、心拍出量の急激な低下によってショックや意識消失などをきたす重症な状態です。
慢性心不全とは、種々の原因疾患によって起こるポンプ機能の低下状態(比較的軽度のもの)で、その病状や経過が長期にわたるものです。
●左心不全とその症状
心不全の主な原因が左心系の左心室で起こると(例えば心筋梗塞など)、その後方にある左心房、肺循環系に血液がたまってきます(肺うっ血)。この状態が左室後方不全です。症状としては、労作時の呼吸困難から始まり、横になると苦しくて座ってしかいられなくなる状態(起座呼吸)、夜間発作性に起こる呼吸困難、急性肺水腫(命にかかわる重症呼吸困難です)が特徴的です。このほか脈が速く(頻脈)なります。また、左室よりの心拍出量の低下した状態(左室の前方不全)では、各臓器の血流低下をきたし、とくに腎臓への血流が減少すると尿の出が悪くなります(乏尿)。ほかに、手足の冷感や爪や口唇の紫色(チアノーゼ)変化などもみとめます。
●右心不全とその症状
心不全の原因が主に右心系にあれば右室の後方にうっ血(静脈の一部分に血液が異常にたまること)が起こり、頸静脈が大きく膨らんだり(怒張)、肝臓の腫大、むくみ(浮腫)などを起こしてきます。
呼吸困難やむくみ(浮腫)などがあり、胸部の聴診所見(胸部の中心部で聞かれる過剰な心雑音。馬が駆けるときの音に似ていて「ギャロップ」と呼ばれます)やその周辺部などで聴取される肺雑音(ラ音)を有することより、医師はその多くを診断しています。
●胸部エックス線検査
胸部のエックス線上で、中心部の心臓影が拡大していることにより(心胸郭比50%以上)心不全傾向が分かります。また、中心以外の肺の血流が増加した状態(肺うっ血)や、胸腔に水分が溜まっていることが確認できれば、心不全の存在がより確実となります。
●心電図検査
いろいろな不整脈が出ます。
●心エコー検査(心臓超音波検査)
超音波によって、心臓の運動(機能)の状態、心房心室の壁の厚さ、心臓の弁の動き方、弁口の面積(狭窄の有無)などがわかります。痛みや苦痛を伴わない検査で、短時間でできるのが特長です。この検査により心拍出量の低下が確認できれば、診断がより確実になります。
●スワン‐ガンツカテーテルによる心血行動態検査
スワン‐ガンツカテーテルと呼ばれる細い管を鎖骨下の静脈や足の付け根の静脈(大腿静脈)から右心房を通して右心室、肺動脈の奥まで挿入します。これにより右心房圧、心拍出量、肺動脈圧が測定でき、心不全の程度判定から治療方針の決定に大事な情報が得られます。
●動脈血ガス分析
肘の内側やそけい部の動脈を直接注射器で刺して、血液を採ります。そして、血液を詳しく測定します(動脈血中の酸素量と赤血球との結合割合)。その数値が低下していれば呼吸不全があきらかになるので、治療方針の決定に役立ちます。
心不全の治療の原則は、まず原因疾患の治療、次に心不全を悪くしている原因の除去、次に心不全そのものの治療です。
●原因疾患の治療
たとえば心筋梗塞、肺塞栓症、弁膜症、先天性心疾患など、そのものの治療を行います。
●心不全を悪くしている因子の除去
身体労作(運動)の軽減、肺炎などの治療、高血圧の治療、塩分摂取の制限(心不全の程度にもよるが1日7g以下、重症例では5g以下)、水分摂取の制限、不整脈の治療、貧血の治療、過労をさける、ストレス除去、薬をきちんと服用すること(のみ忘れの防止など)、他の合併症の治療など。
●心不全に対する治療
呼吸困難に対しては酸素の投与、重症例ではモルヒネ投与をします。患者さんは臥位(寝た状態)では苦しくなるために半座位(上半身を45度に起こした状態)とします。なお、心不全に対する治療薬には以下のものがあります。
①利尿剤:うっ血の治療としては利尿剤(ラシックスなど)を使用し、体内に貯留した水分を体外に出します。
②血管拡張剤・亜硝酸剤:末梢の血管を拡張させて心臓のポンプの抵抗を減少させ、血液の拍出をスムーズにし、肺のうっ血も軽減する大切な薬です。
持続性カルシウム拮抗剤:狭くなった血管(動脈)を拡げることにより、心臓のポンプの働きをスムーズにすることができる薬です。
ACE阻害剤:心不全患者さんの予後の改善が証明されている薬です。
③ベータ遮断剤:拡張型心筋症の一部の患者で心機能の改善が報告されています。
④強心剤:頻脈性の心房細動(不整脈の一部)を有する心不全に特に有効です。
⑤新しい強心剤:心筋に作用し心筋の収縮力を増加させます。
心不全を予防するためには、心不全を悪くしている因子(憎悪因子)を阻止することが大切です。食事制限(塩分制限)と、トレッドミル(体力を測定する装置)などによる心機能の評価結果に基づいた運動(労作)制限が基本となります。
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