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前立腺がん

【病気の知識】

監修:光畑直喜/呉共済病院泌尿器科部長

どんな病気

 前立腺がんは、血液検査で早期発見がかなりの頻度で高くなりつつあります。

 性ホルモンのバランスがくずれる50歳以上の男性は、無症状でも年にいちどはドックなどでPSA(前立腺特異抗原)を測定することが早期がん発見につながり、最大の予防法と言えます。

 前立腺は男性のみが有する器官で、精液の一部(精液全体の約15~30%)を分泌します。膀胱の出口の近くにあり、尿道の最も奥の部で尿道の全周をとりまいています。

 前立腺は、尿道に接する部分の内腺とその外側にある外腺とに分けられます。前立腺肥大症という病気と前立腺がんの発生する部位は異なり、前立腺肥大症は内腺が腫れる病気で、前立腺がんのその多くははそのほとんどが外腺に発生します。加えてその約75%は外腺の後部に発生します。

 泌尿器科医が直腸を通して前立腺指診(指で触れながら前立腺の状態をさぐること)を行う場合に、最も触れやすい部分が、この前立腺の外腺後部です。また前立腺がんのほとんどが、今でもこの方法で見つけられているのが現状です。このことから直腸を通しての前立腺指診がいかに重要かがわかります。

 前立腺肥大症は内腺が腫れる病気(腺腫)で、肥大した内腺が直接尿道を圧迫し、圧迫された尿道はそれにより細くなります。したがって排尿困難が生じやすくなります。

 上述したように、前立腺がんのその多くは外腺に生じることから、尿道から離れているため一般的にかなり進行しない限り排尿に異常はありません。

どんな症状

 早期の前立腺がんは、そのほとんどが無症状です。尿道から内腺をへだてた外腺、加えて外腺後部に発生するのが大部分ということから、がんが内腺に広がりかなり進行してから尿道を圧迫するようになります。初発症状のひとつですが、前立腺がんによる排尿困難があらわれればすでに進行したがんがその大多数を占めることになります。

 初発症状としては、外腺に発生した前立腺がんが内腺に広がり、さらに尿道粘膜に及んで血尿を生じます。また前立腺がんは、膀胱、精のう、他の周囲へ広がりやすく、頻尿、排尿、不快などそれによる血尿、血精液(精液に血が混じること)、坐骨神経痛も初発症状のひとつです。一方、前立腺がんは骨盤骨、腰椎、大腿骨を好発部として、全身の骨への転移が多いという特徴的なことから、腰痛、歩行困難、その他多彩な症状を初発症状とします。

 以上のことから、前立腺がんは症状発現の時点で、すでにかなり進行したがんが大多数という悲観的な病気ともいえます。しかし後述する「予防法」が最も大切なことです。

どんな診断・検査

①尿検査:前立腺が尿道あるいは膀胱へ広がると、肉眼的血尿又は顕微鏡的血尿が見られます。

②前立腺指診:直腸を通しての前立腺指診で石のように硬い部を触れます。一部の前立腺がんには硬くないものもありますが、本検査は診断上大きな役割を果たしています。

③血液検査:前立腺がんに特異な血液検査として、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺酸フォスファターゼ(PSA)、ガンマーセミノプロテインが腫瘍マーカーとして通常行われています。なかでも前立腺特異抗原(PSA)は非常に精度の高い検査です。

④経直腸的超音波検査

⑤前立腺生検:問診を含め①~③あるいは①~④の検査を行った結果、前立腺がんが疑われた場合に前立腺生検が行われます。これは前立腺を針で数ヵ所刺し、前立腺のいくつかの部の組織を取り出し、病理学的検査でがん組織の有無を調べるものです。がん組織があれば、ここで初めて前立腺がんと診断されます。

⑥CT、MRI、骨シンチグラフィーほか:前立腺がんが確定した段階で、がんの広がりの状態、骨への転移の有無、肺への転移の有無などを調べます。特に最近の高磁力発生MRI(造影剤使用)ではがんの特定がかなりできるようになっており、生検前検査として外来で採用する病院が増加しています。

どんな治療法

①前立腺全摘除術
 早期がんの場合のみに行われ、前立腺とともに精のう、所属リンパ節を取り去る手術です。これにより治癒が期待可能です。ロボット手術、内視鏡手術、開腹手術とありますが、尿漏れ、男性機能低下が欠点です。ロボット手術は近年増加(保険適応もあり)していますが、がんの切断断端陽性率の良化、尿漏れ、再発率において従来の手術より改善しているかどうかはまだ不明です。
  
②内分泌療法
 早期がんの発見率が少ない現在、主流となっている治療法です。前立腺がんは男性ホルモンの働きにより進行し、男性ホルモンを抑えることによりがんの縮小、進展予防効果があるという大きな特徴点を利用したものです。したがって早期がんから末期がんに至るまで広く行われているのがこの内分泌療法です。去勢術を行うだけでも効果がありますが、副腎からも少量の男性ホルモン分泌があるため、女性ホルモン剤、抗男性ホルモン剤、LH-RHアゴンスト剤の投与が行われています。約75%~95%の前立腺がん患者に対がん効果があると言われています。
 内分泌治療は、高齢者、合併症の多い患者さん(早期がんから進行がんまで)に実施されますが、少なくとも早期がんであっても摘出手術、放射線治療の2つの主な治療法に比較して治癒率は劣ります。あくまでも、がんとの平和併存を期待する治療法です。高齢であっても悪性度の高いがんは、積極的に内分泌療法、抗がん剤治療併用の放射線治療、手術治療を若年者に準じて行う病院もあります。高齢あるいは合併症があり、悪性度低く転移のない症例では、慎重な外来での無治療経過観察もヨーロッパ中心に行われています。

③放射線療法=外照射、内照射(放射線用治療針を挿入)
 体力的に手術のできない早期がんの人、またはある程度がんが広がっている人に内分泌療法とともに行われます。手術治療と 同程度の治癒が望めます。特に最近では、粒子線治療による外照射は、がん組織への破壊力が高く、近くの膀胱、直腸への放射線の影響が少ないとされています(保険外適応で250~300万円かかるが、最近外資系の生命保険に加入しておくとほぼ全額負担してもらえる)。尿漏れ、男性機能低下が手術に比し少ないのが特長です。

④化学療法
 前立腺がんは、悪性度の低いがん(分化細胞がん)、悪性度の高いがん(未分化細胞がん)、その中間の中分化細胞がんが混在しているのが一般的です。内分泌療法により、悪性度の低い分化細胞がん部分は著しい効果を示し、悪性度が中間の中分化細胞がん部分は多少とも効果が見られます。悪性度の高い未分化細胞がん部分は内分泌療法にほとんど反応しません。したがって内分泌療法を継続すると、最終的に残り、がんの進行を促すのが悪性度の高い未分化細胞がん部分で、放射線療法とともに種々の抗がん剤が使用されます。化学療法は単独では実施されることは少なく、ホルモン治療と併用して実施されることがほとんどです。

どんな予防法

 前立腺がんは50歳からのがんで(50歳未満は全体の約1%)、70歳台に最も多いがんです。人種的にも異なり、アメリカでは男性のがん死亡率第1位を約10年間保ち続けています。日本では前立腺がん患者はアメリカの約1/10~1/20にすぎませんが、同じ日本人でも在ハワイ日本人1世は日本の約5倍の頻度で見られ、アジアの貧困地域では前立腺がんがゼロに近いという調査事実もあります。

 加えて日本では前立腺がんは年々増加の一途をたどっていて、約15年後には日本人男性のがん死亡率第1位になると予測されています。このことから第2次世界大戦後の日本の食事の欧米化(肉類、乳製品摂取)がその原因ではないかとされていますが、風土、環境などの相違もあり、現在はその一因であろうと言われているにすぎません。

 前述したように、前立腺がんは症状が出現した時点ですでにそのほとんどが進行したがんで、早期がんは他の病気などでたまたま泌尿器科医を訪れた患者さんが偶発的に見つかるという状況でした。しかし血液検査、なかでも前立腺特異抗原(PSA)の精度がこの数年で大きくアップして、前立腺がんの早期発見がかなりの頻度で高くなりつつあります。

 確かな予防法はありませんが、性ホルモンのバランスがくずれる50歳からの病気で、確実に大きく増加している事実から、50歳以上の男性は無症状でも(無症状であるからこそ)、年に1度は泌尿器科医を受診することが早期がん発見につながり、最大の予防法と言えます。

 なお最近では、米国の移植ドナーの剖検集計では、アメリカ人男性の50歳台で23%、60歳台で35%、70歳台で45%の前立腺がんが献腎後、認められている報告もあり、他の固形がんのように、がんが発見されても一人ひとりの病気の環境は全く相違しているので、主治医とゆっくり話をされ、納得のいく治療選択をすることです。

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