【病気の知識】
監修:高橋伸明/福岡記念クリニック院長・脳神経外科医
脳は脳脊髄液(髄液)の中に浮いていて、脳の中には脳室という髄液が溜まっている部分があります。髄液は脳室で作られ脳の周りを循環し、静脈へ吸収されます。一般的に水頭症とは、髄液の流れが悪くなるために脳室が拡大したものを言います(髄液循環障害)。他の原因として、髄液産生過多や髄液吸収傷害が挙げられます。
広い意味での水頭症は、脳室の拡大だけではなくて、頭蓋内の髄液腔の拡大という意味ですが、この項では脳室の拡大という意味で水頭症という言葉を使います。
先天性の水頭症は出生1000人に2人程度発生します。髄液の通り道の中脳水道が閉鎖していたり、背中に瘤がある脊髄髄膜瘤に合併したりします。また染色体の異常などでも起こります。
先天的なものばかりでなく外傷・脳出血・脳腫瘍などの病気で起こるものがあります。また、成人の水頭症で原因が特定できず、脳圧も高くない特発性正常圧水頭症という病態があります。これらについては、二次性水頭症・正常圧水頭症の項目を参照ください。
先天性水頭症で生まれた子供は、頭蓋骨がまだ癒合していないので、脳圧が高くなるにつれ頭囲が大きくなります。先天性水頭症の原因は、中脳水道閉塞症や脊髄髄膜瘤に合併したもの、染色体異常などがあります。胎児期に超音波やMRIで診断できる場合があります。単純な中脳水道閉塞症や脊髄髄膜瘤では、適切な治療を行えれば3分の2程度の例で正常な脳の成長が期待できます。
先天性の水頭症でも、成人になって始めて水頭症が発見されることもあります。中脳水道閉塞やキアリ奇形、ダンディ・ウォーカー奇形という病気です。キアリ奇形は、延髄や小脳が頭蓋骨と頚をつなぐ穴(大後頭孔)に落ちこんで髄液の流れを閉塞して水頭症になりますが、同時に脊髄内にも髄液が貯まる脊髄空洞症(脊髄の水頭症のようなもの)も合併します。
先天性水頭症で生まれた子供は、頭蓋骨がまだ癒合していないので脳圧が高くなるにつれ頭囲が大きくなります。また、大泉門(前頭部の菱形のぺこぺこしている部分)が張って膨れているように見えます。
予後に関しては他の合併奇形にもより様々です。単純な水頭症では、早期に治療を行えば3分の2の症例では知能も正常に育ちます。成人で発症する先天性水頭症は、ゆっくり進行するので激しい頭痛や嘔吐などの急性の症状はありません。また、発育にも異常が無いことがほとんどです。しつこい頭痛やめまい感、失神、睡眠時無呼吸などの症状で発症します。キアリ奇形では、脊髄空洞症と言い脊髄の水頭症になることがあります。この場合は、手の温度や痛みを感じなくなったり、手の筋肉が痩せたりする症状がでます。
妊婦の超音波診断で胎児水頭症の診断がつくことがありますが、確実に診断できるのは妊娠22週を過ぎてからです。疑わしい場合は、妊娠中にも検査可能なMRIが有用です。出生後は頭囲の拡大や大泉門の緊張、他の合併奇形から診断します。CTやMRIで確定診断ができますが、乳児は大泉門が開いているので、そこから超音波を当てると容易に診断できますので経過をみるのに役に立ちます。脊髄髄膜瘤を合併する例やキアリ奇形では脊髄のMRIが必要です。
水頭症に対しては、脳室に管を刺して、髄液を脳室からお腹へ流すシャント手術(脳室・腹腔短絡術)を行います。シリコンでできた管で、一生入れておいても大丈夫ですが、成長と共に長さが足りなくなり、お腹の管を長くする手術を行ったりします。また髄液が流れすぎても問題が起こります。最近では流れる圧を身体の外から変えられるシャントシステムが多く用いられます。
シャント手術は必要なものですが、感染することもあり(5〜15%)頻回に手術が必要になることもあります。最近では生後6ヶ月を過ぎていれば、神経内視鏡を使って脳室に穴を開け、くも膜下腔と交通させる第3脳室穿破術を行う場合もあります。この方法だと管を体内に入れておく必要がなく、1〜2回の手術で済むので、髄液の流れが自然です。しかし、この手術ができる場合と、できない場合があり、適応が限られます。
1980年代に胎児診断された水頭症に対して、出生前手術が試みられましたが、結果が良くなく、今は行われません。
成人のキアリ奇形は、後頭蓋窩減圧術という手術を行います。頭蓋骨の後ろの骨を空けて隙間を作り、髄液の流れをよくしてあげると、脊髄空洞症が改善します。この場合も、水頭症に対してはシャント手術を行う場合があります。
予防は難しいですが、妊娠中に異常が指摘された場合に産婦人科医師とよく相談してください。
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