この水俣条約への対応のために、日本高血圧学会は声明を発表。その使用については、「水俣条約など社会環境の変化も鑑み、今後、新規に水銀血圧計の導入を行わないことを推奨します」「環境負荷なく高精度な血圧が可能なので、いま使用している水銀血圧計について直ちに廃棄・交換を行う必要はありません」としている。
事実上、水銀血圧計の使用の終結宣言だ。
ちなみに、水銀の廃棄処分方法は、きわめて厳格なルールに基づいて行われることになっている。廃棄の際は専門の業者に任せなければならない。もし、普通の可燃ゴミとして廃棄すると、違法行為にあたる。いま稼働している自治体の焼却炉は、炉内の水銀濃度を測定する機器がつけられている。一定の水銀濃度が検出されると、その焼却炉は機能を停止。停止した焼却炉の中から水銀を回収し、炉内の洗浄と整備をすると、その経費は約3億円になってしまう。それくらい水銀の処理については厳しく管理されることになっている。すべて水俣病の経験から始まった対策だ。
今回、日本高血圧学会は声明で、「一気にすべての水銀血圧計の廃棄」という判断にならなかったのは、小さな診療所を中心に多くの水銀血圧計が保有されており、いまも使われているという現実があるからだ。ベテランの医師の中には、使い慣れた聴診器と水銀血圧計を手放さない人もまだ多い。医師は手仕事の感覚が残っている職人気質の世界でもある。その現実にあわせて、ゆっくりとフェードアウトしていく。そして、病院から水銀血圧計が正式な手続きで廃棄されることで、公害から身を守る新たな一歩を踏み出すことになる。
(文=編集部)