手術のいらない心臓ペースメーカは本当に大丈夫?shutterstock.com
小型のワイヤレス心臓ペースメーカーが、早期試験で有望性を示し、従来の有線ペースメーカーに替わるものとなる可能性が出てきたことが報告された。ただし、新型機器には安全性に関していくつかの懸念が残ると専門家らは述べている。
いうまでもなく、心臓ペースメーカーは、心筋に電気刺激を与えることで必要な心収縮を発生させる医療機器で、従来のペースメーカーはジェネレータとワイヤを用いるため、外科手術で埋め込む必要がある。しかし、このワイヤレスペースメーカーは、脚からカテーテルを挿入して心臓に取り付けることができる。
今回の研究は英ロンドンで開催された欧州心臓病学会(ESC)年次集会で発表され、「New England Journal of Medicine」にも8月30日掲載された。実施にあたり、機器の製造元であるSt. Jude Medical社の支援を受けているという。
研究では、米国、カナダ、オーストラリアの患者526人(平均約76歳)を対象とした。使用開始からの6カ月間で、ワイヤレスペースメーカーに「良好な安全性と信頼できる機能性」が認められたと、研究を率いた米マウント・サイナイ病院アイカーン医学部(ニューヨーク市)のVivek Reddy氏らは述べている。
6カ月後の時点で、患者の約7%にペースメーカーに関連する合併症がみられた。AP通信によると、従来のペースメーカーの合併症の発生率は約10%だという。しかし、欧州では昨年と今年の2回、ワイヤレスペースメーカーの臨床試験がいくつかの合併症の発生により中止されている。1つの症例ではペースメーカーが緩み、肺に至る動脈に詰まるという事象が発生している。
ワイヤレスペースメーカーは欧州では承認済みであり、今回の新たな研究結果は米国食品医薬品局(FDA)に提出されると思われる。Medtronic社も同様のペースメーカーを製造しており、欧州では利用可能となっている。
日本はまだまだ心臓ペースメーカー利用が少ない
新型ペースメーカーの費用は従来の2倍以上であり、従来の機器で標準となっているいくつかの機能がないという。また、「患者を遠隔監視することはできないため、確認のために病院へ行く必要がある」と、米国心臓病学会(ACC)広報担当のJagmeet Singh氏はAP通信に語っている。
日本の2011年のペースメーカ植込み数は年間約6万件で,新規植込み数は約3万8000件であった。年々増加傾向になるものの米国や欧州と比較するとまだまだ普及率は低い。
心臓ペースメーカーが使われる疾患は「不整脈」だが、不整脈の主な種類として、房室ブロック、心房細動、洞不全症候群などがあり、その状態や重症度で適用が判断される。
手術という言葉とイメージが障壁となってペースメーカーの利用数の低さにつながっているのか、専門医の意識の問題なのかわからないが、従来の心臓ペースメーカ-だけではなく、植込み型除細動器や心臓再同期療法、さらにはMRI検査に対応するものまで登場してきる。選択肢の一つとして、患者に対してさらなる情報提供が望まれる。
(文=編集部)