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【連載 東洋医学と西洋医学の接点 第5回】

がんや抗がん剤治療による発熱に効果が見られる針灸治療とは?

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鍼灸でがん性の発熱を改善shutterstock.com

がんの塊は細胞の増殖により急速に増大していく。
その増大したがんの塊が周囲の血管、内臓などを圧迫、摩擦し、炎症因子が加わり持続性の発熱が出現する。また、治療においても、抗がん剤によるアレルギー症状のほか、特に放射線、レーザー光線の治療によってがん細胞を攻撃し死滅させる時に、周囲の正常な組織にもダメージを与えてしまう。そのため、治療中、治療後に副作用として長期の微熱、のぼせなどが発生する。

 通常の発熱であれば、西洋医学では抗生物質や消炎解熱剤などをよく使う。ところが、がん治療の場合には、がん性発熱や副作用の発熱に抗生物質や消炎解熱剤が簡単に効かない場合があり、当院を訪れる方がいる。

 当院で行った最初のがん性発熱に対する治療は1997年のことである。

 その年の秋、鼻咽頭がんの患者が来院。放射線を顔面部に直接照射するため、その部分が真っ赤で暗紅色となり、皮膚は乾燥して艶が無い。日中には常にのぼせがあり、夕方から夜にかけて37.3℃~37.5の微熱がある。

 病院では最初、消炎解熱剤を投与されたが、微熱は変わらない。その後、ステロイド剤も併用したが、微熱はそのまま毎晩出る。「微熱を下げることができないので、薬を一切使わず経過観察します。」と説明され、薬の使用は中止された。薬をやめてから10日間も、微熱は毎日出続けたという。

がん性の発熱は陰陽のバランスの崩れから

 患者は、微熱、のぼせによって食欲がなくなり、熟睡できず、寝汗がひどい。体力も急速に落ちている。舌を観察すると、細く痩せて真っ赤になり乾燥している。喉、口腔も乾燥し、「水分が欲しいが、冷水より温水が飲みたい。」と言う。または大量に飲むより、少量を飲めばスッキリするという特徴があった。

 西洋医学の視点から見れば、発熟の場合に水分の補充、または冷水を飲むことは当たり前のことである。しかし、がんによる微熱の揚合、少量の温水を飲むほうが、症状が落ち着くことがある。なぜ西洋医学の治療はがんの発熱に対して限界があるのか?このことを中医学の陰陽学、経絡学説から検討してみる。

 陰陽では人間の体を「陰」と「陽」に分ける。「陰」「陽」にはさらに「実」と「虚」がある。「陰」であり「虚」の場合に、体の消痩(痩せすぎ)、微熱、のぼせ、寝汗、口乾燥、冷水より温水を少量飲むという特有の症状があり、来院した鼻咽頭がんの患者はまさに「陰虚」の症状に合致している。したがって、がんによる微熱の治療は単純に熱を下すことではない。

 まずは、「陰虚」状態を治す必要があると考える。陰虚症状を改善すれば、微熱、のぼせも次第に自然に減る。そのために、養陰清熱(よういんせいねつ~体液の補充により微熱を去る)の目的で、足首の内側周辺にある太渓(たいけい)、復溜(ふくりゅう)、照海(しょうかい)などの経穴を取り、微熱を解除する特殊な陰経刺法(いんけいしほう~左右それぞれの経穴に針を刺し、両手で針を持ち、同時に快速に捻転する。1分間に200回以上、これを3分間ほど行う。

呉澤森(ご・たくしん)

呉迎上海第一治療院院長。中国上海中医薬大学院卒業。元WHO上海国際針灸養成センター講師、元上海針灸経絡研究所研究員、主任医師。1988年、北里東洋医学研究所の招待で来日。現在、多数の針灸専門学校の非常勤講師を務め、厚生大臣指定講習会専任講師、日本中国医学開発研究院院長、主席教授、日本中医臨床実力養成学院院長なども兼務している。『鍼灸の世界』(集英社新書)が有名。
●得意分野:不妊症、内科全般、生殖泌尿系統、運動系、脳卒中後遺症、五官科(目(視覚)・耳(聴覚)・舌(味覚)・鼻(嗅覚)・皮膚(触覚)。特に眼科)等

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