現在、東京都議会では、子どもの声を騒音規制対象外にする条例改正が検討されている。現行の都環境確保条例では、「何人も規制基準を超える騒音を発してはならない」と規定があり、これがトラブルや訴訟の根拠とされてきたせいだ。
マンションなど集合住宅が多い都市部では、音に関しての問題は大きい。とは言っても、子ども、特に赤ちゃんの声をコントロールすることは難しい。米国の神経科学研究者が発表した「人間を最もイライラさせる音 TOP10」には、「ボトルをナイフでひっかく音」や「自転車のブレーキ音」のほかに、「赤ちゃんの泣き声」がランキング入りしている。
日本も海外も思うところに差はないようだが、「泣くのが仕事」と言われる赤ちゃんの声は、「騒音」となりえてしまうのだろうか?
赤ちゃんの泣き声は、"チョークで黒板をひっかく音"と同じ!?
赤ちゃんの泣き声についての研究は多数ある。
2014年8月、京都大学の研究グループは、出産予定日前後に産まれた早産児は、生後1週間前後の満期新生児と比べると、在胎日数や身体のサイズに関係なく、高い声で泣くことがわかった、と発表。さらに、予定日より早く出生した新生児ほど、声は高いという。早産児は自律神経系機能の発達が遅いという報告もあることから、迷走神経の活動低下による声帯の過緊張が関与しているのではと考えられている。
海外の研究では、2009年、独ビュルツブルグ大学の発話前発育・発育障害研究センターの研究チームが、新生児の泣き声は母国語によって違いがみられると発表。ドイツ人とフランス人の生後3~5日の新生児30人ずつ、計60人を対象に調査した結果、それぞれの母親の言語パターンと同じ傾向での泣き声が認められたという。新生児が胎内にいるときに聞こえた母国語の言語パターンを認識して模倣するのは、母親の注意を引くためではないか、と研究者は語っている。
人間の聞き取れる音域(可聴領域)は、20~2万Hz(ヘルツ)といわれる。そのうち聞き取りやすい音域は2000~4000Hz。この数値は、家電のアラーム音と同じだ。さらに、女性の悲鳴や救急車のサイレン、黒板をチョークでひっかく音、そして赤ちゃんの泣き声も、この音域にあたる。要するに、「聞き取りやすい音」=「人に注意を喚起させる音」、もっといえば「人を不快にさせる音」なのだ。
いうまでもなく、赤ちゃんは自分ではなにもできない。食事や排泄の処理など、すべてを親に頼る生き物であり、自分の快/不快を泣き声だけで表現する。お腹がすいた、おむつが濡れて気持ち悪い、そういった訴えを、母親の言語に沿う「パターン」を使い、より早急に対応するように"不快"と思う周波数で発声させているのだ。
少子化の昨今、赤ちゃんの泣き声を聞く機会も減った現代で、普段、耳に慣れてない"警告音"を聴くことに耐えられないと思うのは致し方ないことなのかもしれない。もちろん、だからといって赤ちゃんの存在を忌避していいわけではない。
2014年、カナダの生物学者は、人間の赤ちゃんの泣き声を母シカに聴かせたところ、種が違うにも関わらず強い反応を示したと発表した。赤ちゃんの泣き声の特徴は、哺乳類ではある程度、共通しており、母シカは自分の種かどうか判断するよりも先に、その泣き声に対応すべきと思うようだ。
赤ちゃんの泣き声を気にしてしまうのは、シカが体現するように、「なんとかしてやらねばならない」と感じてしまう本能が呼び起こされるからなのかもしれない。ちなみに、人間が心地よいと感じる周波数は2000Hz以下の音域内で、なんと赤ちゃんの笑い声と同じなのだそうだ。
(文=編集部)