MENU

【連載第2回 「抗がん剤は効かない」をなぜ信じてしまうのか?】

がんの最新治療は、必ずしも最善の治療法ではない

new_yoshisen2.jpg

国立がん研究センター東病院のHPより

 人は健康なときは、「自分は絶対病気にならない」「がんになどならない」と思っているものです。ですから、がんになって始めて、あわてて情報を集めようとします。ところが、気を付けなければいけないことは、今の日本で、正しいがんの情報を手に入れるのは、極めて難しい状況にあるということです
 
 皆さんは、どこから医療情報を得ようとしますか? 平成21年の世論調査によると、一般の人が得るがん情報として、最も多いものはテレビやラジオ番組でした。次いで、新聞、友人・知人と続きます。テレビは最も身近な情報源であり、親しみやすいと言えます。
 
 では、テレビは正しいがん情報を流しているか?というと答えは「NO」と言えます。皆さんが多く見るのは、民放テレビだと思いますが、民放テレビでのがん情報はどうでしょうか? 新聞のテレビ欄などを見ていると、民放で取り上げるがんの情報というと、たいていは、「最新のがん治療」や「最先端がん治療」などです。これらの情報は聞こえがよいのですが、気を付けなければいけないのは、"最新のがん治療"は必ずしも"最善の治療"とは限らないことです。

 "最新治療"はまだ研究段階であることが多いのです。研究段階であるということは、本当に良い治療なのかどうかわかっていない、ということなのです。

 最新治療の中で、テレビなどでよく取り上げられる治療というと、"陽子線治療"や"重粒子線治療"があります。これらは、放射線治療の新しい治療で、従来の放射線治療より、副作用を抑え、効果を高める期待がなされていますが、まだ従来の放射線治療を凌駕するほどのしっかりとしたデータが出ているわけではありません。また、手術に比べて治療成績が明らかに良くなった、というデータも公表されているわけではありません。

 がんの治療成績を見る際には、長期的なデータを見なければなりません。よく5年生存率などと言いますが、がんは、一旦良くなったように見えても、再発・転移をしますので、一時的に良くなっただけでは、本当に"効果があった"とは言えないのです。5年生存率などのように、"長期的なデータ"を改善しなければ、最新治療と言えども、最善の治療とは判断できないのです。

陽子線・重粒子線治療は最善の治療か?

 陽子線治療や、重粒子線治療は現時点では、まだ研究段階の治療にすぎません。陽子線治療の効果に関しては、米国放射線治療学会(ASTRO)が特別委員会を設けて報告を行っています(Radiother Oncol. 2012 ;103(1):8-11.)。それによると、肺がん、頭頸部がん、消化管がん、小児がんで、陽子線を勧めるだけの科学的根拠(エビデンス)がないとしています。

 また、肝臓がん、前立腺がんでは、陽子線の少しだけ有効なデータが報告されているが、通常の放射線治療を上回るものではない、としています。唯一期待が持てそうなのが、小児の眼球の悪性黒色腫と脊索腫に関しては、通常の放射線治療よりも有効そうであると結論づけています。

 さらに、重粒子線治療に関しては、通常の放射線治療よりも、15倍の頻度で、照射した結果、二次的な肉腫を発生したという報告がイギリスからなされています(Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006 Nov;66(3):842-4.)。つまり、狙い撃ちをして効果を高めようとしたのは良かったのですが、照射した組織の障害を引き起こし、逆に二次的ながんを発生させてしまったというのです。
 
 最近では、強度変調放射線治療(IMRT)といって、従来の放射線治療を進化させたもので、必要なところにより強い放射線が、不要なところにはできるだけ放射線が当たらないように、コンピュータで計算した上で照射する放射線治療が各種がんの治療に保険適応となりました。強度変調放射線治療の治療費は、1回分で約3万4千円ですが、保険が効くので、3割負担で済む上、高額療養費制度も使えるため、1か月約8万円以上かかる場合には、払い戻しされるしくみになっています。

 一方、陽子線、重粒子線治療は、保険が効かないため、全て自己負担となり、約300万円くらいかかります。それだけの治療費用をもってして、治療成績が良いならばまだよいのですが、米国からの報告で、低リスク前立腺がんに対して、陽子線治療と、IMRTとを比較したデータがあります(JAMA. 2012 Apr 18;307(15):1611-20.)。ランダム化比較研究といって、最も信頼ができる研究手法を使ったわけではありませんが、米国のがん登録データ(SEER)を使ったデータなので信頼性が高いです。結果は、消化器毒性はIMRTの方が少なく、治療効果は陽子線と、IMRTと変わりませんでした。

関連記事
アクセスランキング
専門家一覧
Doctors marche