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【連載第1回 グローバリズムと日本の医療】

選挙の争点にならないTPP、果たして日本の医療制度は本当に崩壊するのか!?

 2013年3月15日に安倍晋三総理は、日本が環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に参加することを表明し、7月23日から日本はTPP交渉会合に正式に参加した。日本のマスコミ等では農産物を取り上げられることが多いのだが、アメリカの本当の狙いの一つは医療サービス分野だとも言われている。日本には、国民全員が何かの健康保険に加入しており、いつでも、どこでも、誰でも医療機関を受診できる。にもかかわらず、総医療費のGDP比は9.6%(2011年)で、国民皆保険のないアメリカの17.7%(2011年)を大きく下回り、医療費は非常に低く抑えられている。

 安倍総理は国会で「公的医療保険制度は TPP交渉の議論の対象になっていない。国民皆保険を揺るがすことは絶対にない」と答弁している。「世界に冠たる国民皆保険」と表現する人もいる。しかし、本当にそうだろうか。

 日本医師会はこのTPPに強く反対しているが、主な理由は3つある。
① ISDS条項(投資に関する紛争解決手続き)やラチェット規定(あともどりできない規定)が適用されることにより、日本の公的医療保険制度が参入障壁だと訴えられ、健康保険法等の改正求められ、一旦規制改革を行うと後で修正することができなくなり、最終的には国民皆保険が崩される。
②外国資本を含む営利企業が医療に参入すると、混合診療の全面解禁を要求するようになり、高額自由診療の病院が増え、医療の質も低下し、営利病院による患者の選別が行われることで、いつでも、どこでも同じ医療が受けることができる状態がなくなり、最終的には国民皆保険が崩される。
③クロスライセンスによって外国人医師を日本に受け入れた場合、日本の医療水準が低下する危険がある。また、高い報酬を期待する外国人医師は混合診療の全面解禁の要求や自由診療しか行わない等の弊害が出てくる。

●国民皆保険制度を神聖化しすぎていないか?

 たとえ、最終的にISDS条項がTPPに含まれ、この条項が適用されて、日本の国民皆保険が参入障壁だと訴えられても、もし日本の公的医療保険制度が真に「世界に冠たる国民皆保険」ならば、仲裁裁定が行われる投資紛争解決国際センター等でその素晴らしさを立証し、勝利すればよいのではなかろうか。逆に言えば、ISDS条項によって提訴されることを恐れるということは、日本の国民皆保険制度が世界標準から外れたものだと日本医師会が認識しているということではないだろうか。

 混合診療が全面解禁されたとしても、国民皆保険制度と競争し、どちらの方がすぐれた制度なのかを試せばいいのではないか。劣った制度は淘汰されていく。国民皆保険に既得権益を見出す勢力が、その権益を必死で堅持しようとしているようにも映る。国民皆保険を神聖化せず、そのメリットとデメリットを客観的に考え、国民皆保険にも「聖域なき改革」を断行する必要があろう。

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