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甲状腺機能亢進症

【病気の知識】

どんな病気

 甲状腺は、のどぼとけ(甲状軟骨)の下方の気管前面にある10~15gの小さな内分泌器官です。正常では手に触れませんが、腫大したり、しこりができると容易に触れるようになります。甲状腺では、基礎代謝をコントロールする甲状腺ホルモンが作られています。このホルモン産生は、脳の下垂体(鼻根部の奥にある0.5~0.9g位の小さな器官)によって統御されています。下垂体は、脳のさらに上位の中枢である視床下部から制御を受けており、この三者は密接な関係にあります。

 甲状腺機能亢進症とは、血中甲状腺ホルモンが上昇し、代謝が異常に亢進した状態をいいます。その原因は、①ホルモン産生の亢進と、②甲状腺組織の破壊による血中へのホルモンの漏出があります。

 ①ホルモン産生の亢進の代表的疾患は、自己免疫疾患のバセドウ病です。その他にも結節から自律性にホルモン産生が起こる機能性結節(AFTN)や、ごく稀ですが下垂体腫瘍などがあります。

 ②甲状腺組織の破壊による血中へのホルモンの漏出の代表的疾患は、自己免疫性疾患の無痛性甲状腺炎や、橋本病の一時期、出産後の甲状腺機能異常、ウイルス感染との関連が考えられている亜急性甲状腺炎などがあります。

どんな症状

 甲状腺機能亢進症は、代謝が活発になるため、汗をかくようになり(多汗)、脈が速くなり(頻脈)、じっとしていられない状態で手が震える(手指振戦)ようになります。また、摂食量は落ちていないのにエネルギー消費が盛んになるため、やせることもあります。

 この状態が極度になると、短時間に寝具がぬれるほど汗をたくさんかいたり、高熱が出たり、精神不穏や消化器症状(腹痛、下痢など)が出てきます。この状態は生命にとって大変危険な状態で、一刻も早い治療を要すため、甲状腺クリーゼ(crisis=危険)と呼ばれます。

 その他、バセドウ病では甲状腺全体が腫れてきたり、外眼筋(眼を動かす筋肉)を刺激する自己免疫成分により、外眼筋の肥大がおこり眼球が突出してきます。AFTNは、甲状腺にしこりを触れることがあります。橋本病では全体にやや固い甲状腺として触れます。亜急性甲状腺炎では、カゼ症状の後に押すと痛みのある部位が甲状腺に出現し、病状の進展と共に痛む部位が移動するのが特徴です。

どんな診断・検査

●血液検査

 甲状腺ホルモンと下垂体ホルモンのTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定します。甲状腺ホルモンにはT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)があります。これらは血中で大部分は蛋白と結合して存在していますが、実際に体の各組織に働く時は、蛋白から遊離した形です。現在ではこの活性型のfT3、fT4を測定するようになりました。

 自己免疫が関与しているかは、次のような自己抗体を測定します。

▶︎抗TSH受容体抗体(TRAb):TSHレセプターに対する自己抗体で、TSHと同じように甲状腺ホルモンの産生を促します。バセドウ病では95%以上の人で陽性になります。

▶︎抗ミクロゾーム抗体:甲状腺の細胞に含まれる、主にペルオキシダーゼという酵素に対する抗体です。ペルオキシダーゼは甲状腺ホルモンの合成過程(無機ヨードをチロジンに結合させる)に働きます。橋本病で陽性になることが多く、バセドウ病でも、しばしば陽性となります。

▶︎抗サイログロブリン抗体:サイログロブリンにあるチロジン基にヨードが結合し、T3やT4が合成されますが、このサイログロブリンに対する自己抗体です。橋本病で陽性になりやすく、バセドウ病でも3~4割の人に陽性となります。

 また、代謝の状態等を調べるために、生化学検査をします。AIP(血中アルカリフォスファターゼ)は、骨代謝が亢進し、骨のAIPが血中に出てきて上昇します。T-ch(総コレステロール)は、脂質代謝が高まるため低下します。K(血清カリウム)は、男性のバセドウ病に多い周期性四肢麻痺のときに低下している場合があります。GOT、GPTは、頻脈から心不全が出現すると、右心不全徴候として上昇することがあります。

●超音波検査(エコー)

 体に負担を与えず、頸部に機械をあてて行います。形態学的に、大きさ、内部の状態、腫瘤の有無や破壊領域の有無等を調べます。また、カラードップラーで血流状態を検査することで、疾患の良悪性の鑑別や障害の程度を知ることができます。

●甲状腺シンチグラム

 機能を画像的に調べるものです。この検査は核医学検査施設を持っている病院で行われます。


どんな治療法

●バセドウ病に対して

①薬物療法:甲状腺ホルモン生成を抑える薬を内服します。通常は1年以上続ける必要があり、約半数は5年ほどで服薬を中止できますが、10年以上必要な場合も少なくありません。甲状腺ホルモンの材料のヨードを多く摂ると薬の効果が低くなるので、海草の摂取は控えます。

②手術療法:馴れた外科医が行えば機能は直ちに正常化し、約8割の人では、その状態が持続します。問題としては、機能低下や再発を起こす可能性、頸部の傷跡があります。

③放射性ヨード療法:大量のヨウ素131を経口し、甲状腺を破壊します。2~3か月で効果が現れますが、約半数は10年後に機能低下になります。

●亜急性甲状腺炎に対して:抗炎症剤やステロイドで治療します。
 
●無痛性甲状腺炎・橋本病等に対してて:経過を観察し、必要に応じ、対症療法を行います。

どんな予防法

 未治療、あるいは不十分な治療状態のバセドウ病の人に、感染や外傷が加わると起こることがあります。予防としては、バセドウ病の早期発見・治療と、自己判断で治療を中断しないことが大切です。

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