【病気の知識】
副鼻腔炎とは、いわゆる蓄膿症のことです。副鼻腔とは、顔の骨のなかにある空洞で、一般的に鼻の穴と言われる鼻腔の奥に位置し、上顎洞(じょうがくどう)、前頭洞(ぜんとうどう)、篩骨洞(篩骨蜂巣・しこつどう/しこつほうそう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)からなります。
どれも鼻腔とは小さな孔を通してつながっていて、上顎洞は眼球の下あたり、前頭洞は眼の上、篩骨洞は両目の間、蝶形骨洞は眼の奥にあります。それぞれ左右一対で、人によって形や大きさに個人差があります。
副鼻腔炎には、風邪などに引き続いて篩骨洞、上顎洞に炎症が起きる急性副鼻腔炎と、数か月以上にわたって症状が持続する慢性副鼻腔炎とがありますが、ここでは主として慢性副鼻腔炎について取り上げます。
急性副鼻腔炎は、インフルエンザ、肺炎などに続いて起こる場合がほとんどで、抗ヒスタミン剤や抗生物質の注射、あるいは内服などで比較的簡単に治ります。
しかし、慢性副鼻腔炎は、鼻の病気のうちでも、もっともやっかいとされ、個人差がある副鼻腔の構造や本人の体質的なことが大きく影響しているため、なかなか治り難いとされています。
慢性副鼻腔炎では、上記の4カ所の副鼻腔のうち、上顎洞がいちばんおかされやすいのですが、他の3カ所も多かれ少なかれ影響を受けて、炎症を起こしています。
症状は、鼻閉(鼻づまり)、鼻汁、嗅覚障害、前頭部に頭重感があるなどです。鼻汁は、粘液性、膿性、あるいは両方がまじった粘液膿性で、鼻の穴から出る場合と喉にまわる場合と2種類あります。のどのほうにまわると、咳や咳ばらいの原因になります。
また、鼻の粘膜が腫れたり、鼻汁によって鼻腔の通気が障害され、鼻づまりが生じます。鼻腔内に、キノコ状の肉芽、鼻たけ(ポリープ)ができると、さらに鼻がつまって嗅覚が鈍くなったり、なくなったりすることもあります。
重症になると、周辺の臓器へ影響が現れるケースも出てきます。耳から鼻へと通じる管の炎症から中耳炎を起こし、鼻汁がのどに流れ込むことによって、慢性の咽頭炎、気管支炎、胃腸障害にまで発展する例もあります。
慢性副鼻腔炎の原因として、上顎洞の底が歯の根っこ、歯根部に隣接しているため、虫歯による歯根部の炎症が引き金になることもあります。
眼で見て判断する視診と、エックス線などをつかって副鼻腔の構造を確認したり、中の様子を詳細に調べたりします。
①視診
最初に額帯鏡と鼻鏡という器具を使って鼻の中を見ます。さらに内視鏡を用いると、より細かいところまで見ることができます。副鼻腔から鼻腔に通じる通路、中鼻道や嗅裂に粘液性、粘膿性、あるいは膿性の分泌液が流れ出しているのが認められます。鼻たけができているのを確認できることもよくあります。鼻腔の後方を見るには、以前は後鼻鏡という小さな鏡で見ていましたが、最近では内視鏡で見ることが多くなっています。鼻汁がのどのほうへ流れていく後鼻漏の症状を確認することができます。
②画像検査
●単純エックス線検査:顔面正面ウォータース法により上顎洞、篩骨洞、前頭洞のなかに異常な陰影のないかどうかを見ます。
●エックス線断層撮影:顔の額の部分の断層撮影で、各副鼻腔の病変が観察できますが、最近では次のCT検査をすることが多くなっています。
●CT:副鼻腔内の病変がよくわかります。とくに単純エックス線撮影で片側だけに陰影が認めたられた時には、上顎がんの疑いがないかどうかを調べるためにもCT検査をした方がよいとされています。
●MRI:副鼻腔の軟部陰影の把握に優れています。炎症によって起きている病変の状況を詳しく見るこができます。粘膜が腫れて厚くなっているのか、液体が貯まっているのか、真菌症か、腫瘍かなどの鑑別がかなりの程度で可能です。
副鼻腔は本来、人によって形自体が異なり、アレルギーかどうかなど本人の体質、菌の種類や強さ、生活環境など、複雑な要素が絡み合っているため、治療はかなり難しいとされています。これまでは、手術が行われることも多かったのですが、最近では、とくに後述のマクロライド系抗生物質を長期にわたって持続投与することにより、かなりの患者さんが手術を免れるようになりました。 手術を行わない保存的治療と手術の両方について、それぞれどんな治療法があるかを説明します。
●保存的治療:慢性副鼻腔炎では、まず保存的治療を行います。
①鼻処置
血管収縮剤などを綿棒やスプレーで鼻内に塗布し、鼻汁を吸引します。
②ネブライザー療法
抗生物質、ステロイド、血管収縮剤などの入った液を霧状にして鼻から吸入します。
③上顎洞穿刺洗浄
鼻から上顎洞に針を刺し、貯まっている液を吸引し、生理食塩水で洗浄します。抗生物質を注入することもあります。
④プレッツ置換法
薬液を鼻腔内に注入した後、ポリッツェル球と呼ばれる器具で、鼻腔に圧力をかけることで、さらに奥にある副鼻腔内に薬液を送り込みます。
⑤点鼻薬
鼻づまりがひどいときには、血管収縮剤入りの点鼻薬を用いることがあります。あまり使いすぎると鼻の粘膜に異常をきたし、持続性の鼻づまりとなってしまうおそれがあるので注意が必要です。
⑥薬物療法
抗生物質や酵素製剤、粘液溶解剤が用いられます。慢性副鼻腔炎が急に悪化するときには、原因となった菌によって各種の抗生物質が用いられます。また、マクロライド系抗生物質を長期にわたって投与する療法の有効性が認められ、広く行われるようになっています。これは、抗生物質の抗菌作用の効果というよりも、免疫調節作用が改善したり、粘膜線毛運動の促進や分泌の調節などが起こるためとされています。
●手術:保存的治療、とくにマクロライド系抗生物質と粘液溶解剤の内服を2~3カ月間行っても症状が改善しない場合は、手術療法を考えることになります。副鼻腔炎に対する手術法にはいろいろなものがありますが、最近の主流は内視鏡を用いた鼻内手術です。
①機能的内視鏡下副鼻腔手術(Functional Endoscopic Sinus Surgery: FESS)
鼻内手術は以前から行われていましたが、硬性内視鏡と小型CCDカメラによってTVモニター画面を見ながら、鼻腔内から各副鼻腔を開放するこの方法が広く行われるようになりました。切開をせずに、鼻の穴から鼻腔および奥の副鼻腔の手術ができるのです。この手術は、全身麻酔または局所麻酔で行われます。まず、鼻たけがあれば除去します。鼻腔と副鼻腔をつないでいる中鼻道から篩骨洞を開放し、篩骨洞内の病的粘膜を除去します。その他の副鼻腔の病変がある場合は、それぞれの鼻腔との通路を大きく開放します。手術後の治療も重要で、前述のマクロライド系抗生物質の少量長期療法を併用することで良好な治療成績があげられます。
②上顎洞根本術(Caldwell-Luc手術)
以前は慢性副鼻腔炎の手術というともっぱらこの方法で行われていました。現在でも上顎洞の病変がひどい時は適応となりますが、そういう症例はかなり少なくなっています。歯肉を切開して上顎洞の前壁を露出させ、ノミなどで上顎洞前壁の骨を削開して上顎洞粘膜を剥離して除去します。鼻腔とつながっている孔の周囲の膜状の部分を切除して、中鼻道との交通がよくなるようにします。さらに上顎洞から、または鼻のほうから篩骨洞を開放します。
③手術合併症について
副鼻腔は複雑な形態をしており、また周囲には眼、頭蓋底など重要な臓器があり、それらとの境目が薄い骨であるため、手術操作により、これらに損傷をきたす危険性があります。以下に手術による主な合併症をあげておきます。
▶︎眼合併症:篩骨洞の外側壁、すなわち眼窩の内側の壁は紙様板とも呼ばれる薄い骨壁です。これを損傷すると、その程度にもよりますが、複視、視力障害、眼球突出などをきたす危険があります。また、後部篩骨洞あるいは蝶形骨洞の手術で視神経管骨壁を損傷すると、視力障害を起こす場合があります。
▶︎頭蓋内合併症:副鼻腔天蓋や篩板を損傷すると、髄液漏や頭蓋内感染症を起こす危険があります。手術中に気がついて適切な処置を行えば大事にはいたりません。
本人の副鼻腔の構造的特徴や体質など、先天的な要素が影響することも多く、完全に予防することは困難なのが実状です。まずは、鼻汁、鼻づまりなどの症状がある程度続く場合は放置せず、耳鼻咽喉科の専門医の診察を受けた方がよいでしょう。とくに中高年で鼻の症状が片側のみに起きている場合は、上顎がんの可能性も考えられるため、エックス線検査のできる施設を受診することをおすすめします。副鼻腔炎に伴う病変が高度でなければ、現在多くの場合は保存的治療で症状は軽くなります。
「いいね!」「フォロー」をクリックすると、Facebook・Twitterのタイムラインでヘルスプレスの最新記事が確認できます。