【病気の知識】
ヒトの体内をかけ巡っている血液は、体に必要な各種栄養素を運んでいます。血液中には酸素を肺からさまざまな組織へ運搬する赤血球、体に侵入してくる細菌を殺す顆粒球、免疫をつかさどるリンパ球、出血時に傷口をふさぐ血小板などの成分が浮遊しています(顆粒球やリンパ球をまとめて白血球と呼びます)。
一般的に貧血とは、赤血球の中に含まれ、酸素を運ぶ働きをするヘモグロビンが少なくなった状態をいいます。つまり、赤血球が少なくても貧血になりますし、赤血球の数が十分にあってもヘモグロビンの量が少なくなれば貧血になってしまいます。
貧血が起こる原因は様々ですが、以下、代表的なものを説明します。
●鉄欠乏性貧血
体内の鉄分が不足するために起こる貧血です。原因は食物から摂取する鉄分量の不足によることもありますが、多くは何らかの出血にともなう鉄分の喪失です。出血部位は男性では消化管(胃潰瘍・胃ガン・大腸ガン・痔など)が多く、女性は生理や妊娠、授乳などによっても鉄分不足が起こります。若い女性に多く見られる貧血です。
●症候性貧血
何らかの病気、とくにリウマチ性関節炎や結核などの病気がある患者さんに見られる貧血で、原因の病気の回復とともに改善します。
●巨赤芽球性貧血
ビタミンB12や葉酸が欠乏した時に見られる貧血で、アルコール中毒の人や、萎縮性胃炎、胃を何らかの理由により切除した場合に発症する貧血です。
●溶血性貧血
赤血球の破壊が何らかの理由により進むことで起こる貧血です。赤血球の生産よりも破壊が上回った場合に認められます。赤血球破壊が進むと、黄疸や胆石などが現れることもあります。
●再生不良性貧血
赤血球や白血球、血小板等をつくる骨髄の機能が失われた状態で、貧血だけではなく白血球や血小板の減少も認められます。
●その他の血液疾患に伴う貧血
骨髄中に発生する各種の悪性疾患(白血病、多発性骨髄腫など)にともない、貧血が起こることがあります。これは骨髄で正常な赤血球の産生が抑えられたために起こるので、もとの病気が治らない限り貧血の改善は期待できません。
貧血が起こると体がだるく、疲れやすく、力が入らないような状態になります。外見では顔色が悪く、軽い動作でも動悸や息切れを感じます。
立ち眩みと呼ばれる一時的な脳の虚血に伴うふらつきや意識障害は、貧血の人でも起こりますが、これは貧血とは異なる病態です。
貧血は血液検査によって診断します。血算と呼ばれる検査で、白血球、血小板、赤血球の数、ヘモグロビンの量、ヘマトクリット値(血液中に占める赤血球の容積率)などが調べられ、それらの結果を総合的に判断して貧血の程度と原因を検討します。
また血液中の鉄分の量やビタミンB12、葉酸などの値を調べ、その原因をさらに検討します。骨髄中の病変が疑われる場合には、骨髄穿刺と呼ばれる検査を行います。
骨髄に病変があると疑われる場合に行なう検査で、前胸部あるいは腰部の骨から穿刺します。皮膚を麻酔した後、骨の表面を麻酔し、骨に小さな孔を針で開けます。そのまま骨髄中に達した針で、骨髄の内容物を外側から注射器で吸引して採取します。採取する骨髄の量は検査の種類によっても異なりますが、通常数mlです。その一部は顕微鏡検査に使用し、白血病細胞などが認められる場合にはそれぞれ特殊な検査を行います。
さらに貧血の原因によっては各種の検査が必要になることがあります。たとえば、鉄欠乏性貧血と診断されると、その出血源を検討するために胃の内視鏡や大腸の検査、女性の場合には婦人科的検査が必要となります。
巨赤芽球性貧血では、胃や腸の検査、アルコールの影響による各種臓器の検査などが必要となります。溶血性貧血ではその原因となる疾患の一つに悪性リンパ腫などがあるので、全身のリンパ節等を含む様々な検査が必要です。
貧血の治療法はその原因によりさまざま。いずれにしても薬剤等で回復する見込みがなかったり、症状のひどい場合には輸血が必要となります。
輸血には赤血球輸血と血小板輸血とがあります。貧血の治療で行われるのは赤血球の輸血で、これはABO型とRh型という2つの血液型を合わせた上で、さらに患者と輸血用血液とが反応しないことを確認した上で行われます。最近は輸血後GVHD(移植片対宿主反応)を予防するために製剤を照射してから輸血するようになっています。
もちろんHBV(B型肝炎ウイルス)やHCV(C型肝炎ウイルス)と言った肝炎ウイルスは事前にチェックして、いないことを確認した上で用いられます。
鉄欠乏性貧血には、出血源があればそれを治療して原因を取り除き、鉄剤を服用することで回復を待ちます。また、鉄剤を注射や点滴で投与する場合もあります。通常、鉄剤投与を開始してから2~3週間で反応が認められますが、貧血が回復してからも約6カ月間は鉄剤の服用が推奨されています。
葉酸欠乏が原因と考えられる巨赤芽球性貧血は、通常十分な食事とることで回復が期待できます。ビタミンB12欠乏の場合には、ビタミンB12を注射によって補い貧血を治療します。胃を切除したためにビタミンB12の吸収ができない患者などでは、その後、一生にわたりビタミンB12を注射により補う必要があります。
溶血性貧血には、その原因を究明し、原因の病気の治療をすることが先決となります。輸血の困難な場合が多いため、早急な原因疾患の治療が必要になります。
症候性貧血も同様で、原因となる病気を治す事が貧血改善の第一歩と考えられます。
再生不良性貧血の場合には、再生不良性貧血そのものを治療する必要があります。そのためには、骨髄移植やATG(抗胸腺細胞血清)あるいは免疫抑制剤治療が必要となりますし、それまでの間は輸血により症状の改善を図る必要があります。
その他血液疾患に伴う貧血の場合も、原因の病気の治療が優先されます。白血病の場合、抗ガン剤等の治療により貧血がさらに進みますので、輸血はどうしても避けて通れない治療になります。
ふだんからバランスの良い食事をとることが健康を維持するためには必要です。こと貧血予防にはそれだけでは十分ではありません。とくに女性の場合には、生理などのために鉄欠乏性貧血に陥りやすいため、鉄分の補給は十分に行いましょう。鉄分の多い食物を食べるのはもちろん、場合によっては鉄剤の服用も必要です。
その他の貧血は、各自の努力により予防できるものではありません。症状が出た段階で早目に検査をし、その原因を究明して治療にあたることが大切です。
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