【病気の知識】
胆石とは、胆道系、つまり胆汁の流れ道にできる石の総称です。泥状あるいは砂状の固形物も含みます。胆嚢にできる胆嚢結石が胆石症の代表ですが、総胆管内胆石、肝内胆管内胆石も広義には胆石症の中に含まれます。
胆汁は肝臓で作られて、肝臓内の胆管から、肝臓外の胆管を通り、十二指腸乳頭部という出口から、消化管内に排出されます。また、胆汁は、肝臓から肝外胆管に出たあと、胆嚢内でプールされます。胆汁の主な成分は、コレステロール、ビリルビン、リン脂質、胆汁酸、カルシウムなどです。
胆管の途中に80cc程度の容量がある袋が胆嚢です。肝臓で作られ、分泌された胆汁が胆嚢内に貯められ、その中で水分が吸収され濃厚な胆嚢胆汁となります。胆嚢は、食後に収縮し濃厚な胆嚢胆汁を十二指腸に排出し食物の消化吸収を助けるという働きがあります。胆汁には界面活性作用(石鹸のような作用)があり脂肪の吸収を助けます。
胆石を成分から分析すると、主に、コレステロール胆石と色素胆石に分けることができます。コレステロール胆石の成因は、もともと水に溶けにくいコレステロールが、胆汁中では胆汁酸とリン脂質(レシチン)の界面活性作用を得て、水溶性となっているのですが、胆嚢に蓄積されている時に、コレステロール析出促進因子と抑制因子のバランスが崩れて、コレステロール胆石として析出するとされています。色素胆石のうち、ビリルビン胆石といわれるものは、主に、胆管、胆嚢の細菌感染が原因とされています。腸管から細菌が胆管、胆嚢に入り込み、酵素を分泌するためにできるといわれています。また、色素胆石のうち、黒色石といわれるものは、溶血性貧血という特殊な貧血症と関連があるといわれています。
わが国では、食事や生活様式の西洋化により、コレステロール胆石が約70%を占めます。胆道感染が原因であるビリルビン胆石は、戦前までは大半を占めていましたが、最近では激減しています。代わって、黒色石が増加傾向にあるといわれています。日本人の胆石保有率は、約10%で、増加傾向にあるといわれています。女性は男性の2倍の頻度であり、加齢とともに頻度が増加するといわれています。
胆嚢内胆石はコレステロール胆石が70%で、ビリルビン胆石15%、黒色石15%とされています。胆管内胆石では、コレステロール胆石30%、ビリルビン胆石70%とされています。肝内胆管胆石のほとんどは、ビリルビン胆石とされています。
胆石の危険因子として、肥満、妊娠、糖尿病、肝硬変、経口避妊薬の常用、胃切除後などがあげられています。
胆石の中には、まったく症状のない無症状胆石の状態もありますが、代表的な症状は、せん痛発作というものです。食べ過ぎ、脂肪に富んだ食事、疲れ、がせん痛発作の引き金といわれています。みぞおちから右上腹部の激痛で、しばしば、右肩の痛みを伴うといわれています。その他、胃部不快などはっきりした症状でないこともあります。
腹部超音波検査の普及に伴って、最近では、消化器系専門医であれば簡単に侵襲なく胆嚢内胆石の有無を診断できる時代となっています。大きな胆嚢内胆石はもちろんですが、小さな石や泥状の胆石も診断できます。腹部超音波検査は非常に有用ですが、胆管内胆石や肝内胆管胆石などは、ときに超音波に写ってこないこともあります。
この他、腹部CTでは、カルシウムを含んだ胆石の場合、診断できることがあります。また、排泄性胆道造影といって、造影剤という薬を注射して胆管や胆嚢を映し出す検査がありますが、現在はほとんど行われていません。
胆石の患者さんすべてに行うわけではありませんが、胆石の診断だけでなく治療にも有用である検査として、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)があります。この検査は、胆管内や胆嚢内の胆石を診断できるだけでなく、胆管の胆石を摘出できるという利点があり、非常に有用な検査です。胆管の胆石を手術すると通常、手術後退院までに一ヶ月程度かかるところを、この検査で胆管の石を摘出してしまえば、入院期間が数日で、しかも手術の必要がないということになります。
胆石の診断の過程を簡単に説明すると、症状の有無にかかわらず、腹部超音波検査で胆嚢内胆石が診断されます。胆管内胆石が疑われる場合(肝機能障害、胆管の拡張など)にはERCPが必要なことがあります。また、手術が必要な患者さんでは、胆管の走行を確認するためERCPを行うこともあります。胆管の走行の確認には、近年、MR胆管膵管造影という無侵襲な検査も進歩しています。
胆嚢内胆石症で胆嚢炎を伴った状態、腹痛を頻回に繰り返しているような状態、胆管内胆石症で急性膵炎を伴った状態、胆管内結石に胆管の感染を伴って重症の感染症をきたした状態(急性化膿性胆管炎といいます)などは、絶対的な治療の対象といえます。無症状の胆嚢内胆石症の場合が問題ですが、腹腔鏡下胆嚢摘出術が進歩して、お腹の傷も小さく胆嚢内結石の治療ができるようになりましたので、無症状の胆嚢内胆石の患者さんは、一度、消化器専門医に治療の相談をするといいでしょう。
胆嚢内胆石症の治療に関しての、内科的治療としては、経口薬の内服による胆石溶解療法があります。胆石溶解療法による胆嚢内胆石の消失率は、1年で約20〜30%とされています。胆嚢内で浮遊状態の胆石に効果があるといわれています。
その他、体外式衝撃波胆石破砕療法(ESWL)といって、衝撃波で胆嚢内の胆石をくだく治療があります。効果は、消失率、1年で60〜80%ですが、小さくなった胆石が胆嚢から胆管に落ちて、胆管結石となって問題を起こすという、合併症があります。
胆石の内視鏡的治療の代表は、ERCPです。胆管内胆石症が適応です。胆管内胆石が十二指腸の出口のところに引っかかってしまって、急性膵炎や胆管炎をきたしている場合などは良い適応です。内視鏡を十二指腸まで挿入し、胆汁の出口を少し切開して、胆石を特殊な道具ではさんで摘出します。胆管や膵管に管を挿入して、胆汁や膵液の排出を助けるなどの処置もできます。
胆嚢内胆石の外科的治療の主役は、なんといっても、腹腔鏡下胆嚢摘出術です。小さな傷で胆嚢を摘出できるという利点があります。通常は、全身麻酔で行われますが、硬膜外麻酔で意識のある状態で手術をする施設もあります。傷が小さいですから、術後数日で退院できるという利点があります。最近では、特別な場合以外は、腹腔鏡下胆嚢摘出術で胆嚢内胆石症の治療が行われています。胆石以外にも、胆嚢ポリープ、胆嚢腺筋症、慢性胆嚢炎なども腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応といえます。
開腹下胆嚢摘出術は、最近では、特別な場合に行われる時代となっています。以前に開腹手術を受けてているため腹腔内に腹腔鏡を挿入できない場合、急性胆嚢炎が重症で腹膜炎などを併発している場合、胆嚢癌が強く疑われる場合、などです。
胆嚢内胆石症の患者さんのなかには、多くの無症状な方がいます。一般に、胆石が無症状のまま経過する症例は全体の50%とされています。あとの50%の患者さんは、腹痛、せん痛を間歇的に繰り返したり、胆管内胆石で胆道感染(急性閉塞性化膿性胆管炎など)や肝機能障害を起こしたり、急性膵炎を起こしたり、急性胆嚢炎をおこしたりするわけです。
●急性閉塞性化膿性胆管炎
急性胆嚢炎の主な原因は、胆嚢の胆管への出口に胆石が引っかかって、胆嚢の出口がつまってしまって、これに細菌感染(大腸菌やクレブジェラ菌など)が合併するために起こります。胆嚢が緊満して肝臓内に破裂して肝内膿瘍を形成したり、腹腔内に破裂して腹膜炎をきたすこともあります。内科的治療の基本は抗生剤ですが、重症例では、治療も煩雑で、超音波を使って胆嚢内に管を経皮的に挿入したり、外科的開腹手術を必要とすることがあります。
●急性胆嚢炎
胆管内胆石が十二指腸の出口近くに引っかかって、胆管が閉塞し、これに細菌感染が併発した場合におこります。強い上腹部痛、高度の発熱、黄疸が特徴的な症状です。通常、肝機能障害もみられます。重症例では、腎不全、敗血症、DIC(血液中の凝固因子が消費されて血がとまりにくくなる状態)、血圧低下(ショック状態といいます)をきたすこともあります。治療は、ERCPで胆管内結石を取り出して、胆管内に管を挿入して胆汁排出を促進させたり、超音波で拡張した肝臓内の胆管に管を挿入して、胆汁排出を正常化させたり、などの処置を必要とします。
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