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肝硬変

【病気の知識】

どんな病気

 肝硬変とは文字どおり肝臓が硬く変化した状態で、肝臓病が進行すると、原因は何であれ肝硬変に至ります。慢性的に肝臓に炎症が起こっている状態を慢性肝炎と言いますが、それは、「肝炎ウイルスやその他の原因で肝細胞が毎日多数壊れ続けている状態」と表現できます。つまり、肝臓に"ほころび"が次々にできますが、肝臓は黙って只々壊れ続けているわけではなく、そのほころびを修復するために線維の増生が始まるのです。それは、開腹手術の時、お腹の傷に一致して硬い線維の盛り上がりが見られるのと同様な現象です。

 しかし、肝臓が他臓器と異なる点は、線維による修復の他に、肝細胞の再生現象が同時に進行することです。肝臓は「とかげのしっぽ」のように、修復のため細胞が増殖するという能力を持っているのです。肝臓がこわれる。再生する。さらに線維が増える......。この繰り返しにより、肝臓は線維で硬くなり、肝細胞の再生が部分的に強く起こるため肝臓の表面はでこぼこした状態になってきます。このような肝臓を肝硬変と呼び、そこまでの途中経過が慢性肝炎です。

 問題は、肝硬変になると再生した肝細胞の集団を線維が壁のように取り囲んだような状態(=再生結節)となり、門脈や肝動脈からの血液が流れ込みにくくなることです。つまり肝臓へ血液が流れこむ際の抵抗が増加します。特に門脈血流はうっ滞を起こし、門脈内の圧は上昇します。これが門脈圧亢進症とよばれる現象です。

 門脈の圧が上がってきますと、門脈血の一部が肝臓へ流れ込まずに別のルートへ逃げていく血液の流れ(バイパス)ができてきます。バイパスは直腸付近(痔)や腹部表面、食道(食道静脈瘤)などにできます。この中で最も問題となるのが、出血の危険のある食道静脈瘤です。
 
 さらに、このバイパスの持つもう一つの重要な問題は、意識障害を起こす原因となることです。門脈を流れる血液は胃や腸などの消化管から集められた血液なので、その中には消化管で産生されたアンモニアや肝臓での解毒を必要とする種々の物質が含まれています。

 健康な人の場合は、門脈の血液は肝臓を通過して解毒され代謝をうけるので問題はないのですが、肝硬変の場合には、バイパスの発達により肝臓を通過しない門脈血が全身に運ばれる割合が多くなってきます。つまり、脳の働きを悪くするような有毒物質の血液中の濃度が高くなってしまうことにより、いわゆる肝性脳症がひきおこされます。肝硬変になりますとバイパスの発達以外でも肝臓の細胞自体の機能が低下し、代謝機能や解毒機能に異常がでるようになります。

 わが国ではC型、B型肝炎ウイルスの持続感染により慢性肝炎から肝硬変へと進展する例が多く8割以上を占めます。それにアルコール性肝硬変が続きます。この他に各種代謝異常(ヘモクロマトーシス、ウィルソン病など)、胆汁うっ滞(原発性胆汁性肝硬変症など)、自己免疫、寄生虫、慢性心不全などによるものがあります。

どんな症状

 肝臓病の症状はあくまで肝臓病がある程度進んだ状態になってはじめて認められるものであり、多くの初期の肝硬変症には通常みられません。肝硬変では胆汁を作ったり、排泄する力が落ちてきます。肝硬変が進み肝機能が著しく低下すると皮膚や白目の部分に黄疸が認められるようになります。また、血が止まりにくくなる場合があります。

 肝臓は代謝の中心でこの機能に問題が起こるといろいろな症状がでてきます。体に必要な蛋白質のアルブミン産生が低下すると血液の浸透圧が維持できなくなり、血液中の水分がお腹の中や手足の皮下組織に漏れ出て、腹水や浮腫の原因となります。血液中のホルモンの量を調節するのも肝臓の大事な役割です。女性ホルモンの代謝がうまくいかないことにより、乳房が男性でも女性のようにふくらむ(女性化乳房)、手のひら特に指先、指の付け根、母指球や小指球が赤くなる(手嘗紅斑)、そして胸の前面にクモの巣のように細かい血管がうきでる(クモ状血管腫)などが出現します。
 
 肝臓は赤血球が寿命を終えて壊された時できるビリルビンを処理する工場でもあります。ビリルビンは肝臓でグルクロン酸や硫酸と抱合した抱合型になり、胆汁中に排泄されます。肝硬変では胆汁を作ったり、排泄する力が落ちてきます。肝硬変が進み肝機能が著しく低下すると血液中のビリルビンが上昇して、皮膚や白目の部分に黄疸が認められるようになります。血小板減少や、血液を固める因子(凝固因子)の低下を認めると血が止まりにくくなります(出血傾向)。

 しかし、以上のような症状はあくまで肝臓病がある程度進んだ状態になってはじめて認められるものであり、多くの初期の肝硬変症には通常みられません。

どんな診断・検査

○一般肝機能検査
 多くの場合GOT優位のトランスアミナーゼ上昇があります。これは炎症の程度により変化します。肝硬変としてもっとも特徴ある検査異常は肝予備能を反映した検査です。特にコリンエステラーゼ、アルブミン、総コレステロール、プロトロンビン時間(凝固因子活性を反映している)などは肝臓が合成している物質の量をみることができるため肝予備能の代表的な検査です。ICG色素排泄試験やアミノ酸組成(芳香族アミノ酸と分子鎖アミノ酸の比率)もよく使われる検査です。末梢血では一般に汎血球減少(白血球減少、貧血、血小板減少)がみられ、なかでも血小板は肝硬変の程度をよく反映します。肝硬変の原因診断としては各種ウイルスマーカ-や、自己抗体などを調べます。

○画像診断
 エコー検査で肝臓の表面は凹凸不整で辺縁は丸くなっており肝臓の内部は粗い不均一な像となります。腹水や発達したバイパスの所見が得られることもあります。CT検査でも同様に肝の形の変形がみられます。進行した肝硬変では肝臓は著明に萎縮します。腹腔鏡所見や肝生検で組織学的に証明するのが確定診断につながりますが、他の画像診断で明らかなときは通常行いません。

○肝性脳症の診断
 ①セブンシリーズ:100から順番に患者さんに7ずつ引き算をしてもらいます。肝性脳症の患者さんの多くは100-7は比較的簡単に解答できるのですが、93-7あたりから計算がおぼつかなくなります。
 ②NCT(number connection test):紙面にランダムに数字を1から順に並べたものを用意し、1から2、2から3と数字を線で結び、最後まで線を結ぶのにどのくらい時間がかかるかを測定し病状を把握します。
 ③脳波検査:肝性脳症をおこしている患者さんでは特徴ある脳波所見(三相波)がみられる有用な検査法です。肝性脳症の程度は昏睡度1-4度に分類して表示します。

どんな治療法

 肝硬変はまず、それぞれの原因に応じた治療が必要です。一般的には肝機能が安定していてGOT、GPTが高くない場合は薬剤を必要とませんが定期的な通院により経過をみます。炎症が続く場合にはグリチルリチン(強力ネオミノファーゲンC)やウルソデオキシコール酸を投与します。そして3カ月毎の超音波検査に加えCTやMRIなどで肝臓癌の早期発見につとめます。以下のような合併症を認めた場合は病状に応じ治療を行います。

○消化管出血・胃食道病変
 緊急の出血時には輸液、昇圧剤、輸血などでショックの対策につとめる一方緊急内視鏡で出血源を確認し止血します。胃十二指腸潰瘍には、H2受容体拮抗剤、制酸剤、胃粘膜保護剤を使用します。食道静脈瘤に対しては、内視鏡的硬化療法や、結紮術で出血の治療や予防ができるようになりました。外科的な治療法もあります。

○腹水、浮腫
 安静を守らせて食塩と水分の量を制限することが基本になります。利尿剤投与でも改善が困難で低アルブミン血症が著明な例にはアルブミンを投与します。

○肝性脳症
 消化管の浄化、アンモニア産生低下を目的にラクツロースを投与して便通コントロールします。腸内細菌の異常に対してはカナマイシンなどの非吸収性抗生物質を投与します。肝性脳症には分子鎖アミノ酸を多くふくみ芳香族アミノ酸の少ない特殊アミノ酸製剤を使用します。

どんな予防法

 原因に応じて予防策をこうずる必要があります。特にB型やC型のウイルス性肝炎によるものは、持続感染状態が判明した場合定期的な外来追跡を行いその状況に応じた治療を選択することが大切です。インターフェロンなどの治療でウイルスが排除できる場合は肝炎を治癒に至らしめることが可能であり肝硬変への進展は未然に防げます。肝炎が治癒しなくてもその進展を緩徐なものとすることは可能です(B型および、C型肝炎の項を参照)。アルコールの多飲をさけ、日常生活をきちっと管理することはいずれの原因の肝障害においても重要であることは間違いありません。

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