【病気の知識】
監修:光畑直喜/呉共済病院泌尿器科部長
前立腺は膀胱の出口の所に、尿道を包むようにあり、くるみほどの大きさです。前立腺は、男性だけにある臓器で、精液を尿道に分泌する働きをしています。40才ぐらいから、前立腺が腫れて、大きくなることがあります。前立腺肥大症と呼ばれ、加齢とともに、程度の差はありますが、ほとんどの男性におこります。広い意味の老化現象ですので、特に症状がない場合は放置しても良い場合もあります。しかし、尿道を取り囲むように存在する前立腺が肥大してくると、尿道を圧迫して排尿障害をおこします。
初期には、頻尿、特に夜間頻尿(夜おしっこに何回か起きる)、残尿感(おしっこした後に残った感じがする、切れが悪い)などの症状が見られます。続いて、排尿困難がおこって来ます。おしっこが出始めるのに時間がかかる、出だしてもなかなか終わらない、尿の勢いが弱い、りきまないと出ない、などの症状です。さらに病気が進むと、尿が出なくなったり(尿閉)、さらには、腎臓の働きまで悪くなってしまう場合もあります。
前立腺は直腸の前面にあるので、肛門から指を入れて、触診することにより、前立腺肥大症を診断できます。超音波検査は、前立腺の形や大きさを簡単に苦痛無く診断できるとても良い検査です。検尿やレントゲン検査、CTなども使用されます。前立腺肥大症は、前立腺がんと鑑別することが重要です。鑑別診断のために、前立腺特異抗原(PSA)の測定(血液検査)や前立腺生検がおこなわれます。
内科的治療と外科的療法があります。内科的療法は、症状が軽く、あまり肥大が進んでいない場合、薬物治療を行います。この場合、3種類の薬が使われます。
●αブロッカー:前立腺の緊張をゆるめて、尿道の圧迫をとるのがαブロッカーとよばれる薬です。ミニプレス、ハイトラシン、エブランチル、ハルナ‐ル、アビショット、フリバスなどがあります。
●抗男性ホルモン剤:前立腺への男性ホルモンの作用を抑えて前立腺を縮小させます。プロスタール、パーセリンなどがあります。
●生薬、漢方薬:前立腺の炎症を抑え、腫れをひかせます。エビプロスタット、セルニルトン、八味地黄丸、猪苓湯などがあります。
外科的療法では、温熱療法、レーザー治療、内視鏡手術、ステント挿入などがあります。
●温熱療法:尿道あるいは直腸から前立腺を暖めて、前立腺を縮小させる治療です。管を挿入するだけですので、安全で苦痛は少ないのですが、効果が弱く、持続性のないのが欠点です。
●レーザー治療:レーザーにて前立腺を焼く治療です。色々なレーザーの機種があり、入院麻酔が必要な場合と、外来で局所麻酔で行う場合があり、その効果も色々です。出血が少ない点が優れています。
●内視鏡手術:尿道から内視鏡を挿入し、前立腺を削って切除します。入院麻酔が必要で、出血することもありますが、もっとも効果が確かで、広く行なわれている外科的治療です。
●ステント挿入:尿道を広げる金属の管を入れる方法です。高齢や病気があって手術ができない場合などに行います。
それぞれの治療法には、一長一短があり、肥大の程度、症状の強さ、年齢、全身状態や患者さんの希望を考慮して、最も良い方法を選択します。
なぜ前立腺が肥大してくるのかは、まだよく解っていません。加齢や性ホルモンのバランスが崩れることが、影響しているようです。前立腺肥大ガある場合、疲労や飲酒、長時間の座位などで排尿障害が悪化することがあります。疲労、暴飲暴食を避け、規則正しい生活を心がけましょう。
前立腺肥大症は、中年以後の男性に広くみられるありふれた病気です、色々な治療法がありますので、肥大がひどくなる前に、診断治療を受けると良いでしょう。
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