【病気の知識】
捻挫とはどうなってケガしたか、というケガの仕方の分類です。捻った結果として、皮膚、皮下組織、筋肉、腱、靭帯、骨など関節部分を構成する各パーツが傷つく外傷の総称です。
皮膚が引っ張られると皮下の血管が傷ついて皮下出血を起こし、いわゆる内出血や血腫という腫れと痛みがあります。浅い部分では「痣(青アザや赤い斑)」として見えます。内出血は柔らかい組織をたどって広がり、重力のため下方に移動します。
捻挫の瞬間、筋肉は戻そうとして収縮しますが、捻る外力との力くらべとなります。その結果、筋肉繊維束の一部がちぎれたり、筋肉と腱の接着部分が剥がれたり、筋肉を包む袋(筋膜)が破けたりします。場合によっては腱自体を傷める場合もあります。
捻挫部分の関節では、骨と骨を強固につなぐ靭帯にも力がかかります。本来の弾力の限度を越えて無理な力がかかると、靭帯の一部または全部がちぎれます。この場合に、靭帯が切れずに靭帯が骨を引っ張ることで骨の一部が剥がれる剥離骨折や、長管骨では明らかな骨折をみる場合もあります。捻挫では伸ばされる側と、逆に圧迫される側が対になります。圧迫される側では、圧迫骨折が起きたり、関節軟骨の凹みが起きることもあります。
捻った、みるみるうちに腫れてくる、痛くて動かせない、というのが捻挫で、診察すると靭帯や骨の損傷がありうることを知っておきましょう。
腫れて痛い部位の診察で、筋肉を傷めた、腱を傷めた、靭帯を傷めた、骨にも傷があるかも、と判断していきます。レントゲン検査では骨折について診断できますし、内出血がどの部分にどの程度あるか確認できます。靭帯を傷めた可能性があれば、捻挫と同じ力をかけた状態でレントゲン検査を行い(ストレス撮影)関節の不安定性を確認する場合があります。
超音波診断装置(エコー)の検査は安全で痛みがなく、筋肉や腱、主な靭帯など軟部組織の損傷の具合を診断することができます。関節に造影剤を注射して漏れ出す状態をレントゲンで確認する診断方法もあります。X線CTやMRIを用いて診断する場合もあります。
応急処置と急性期の処置は「RICE」です。
▶︎R:REST(安静)
患部を動かさず、痛みのでる動作をしないことです。
▶︎I:ICE(氷)
または冷水で冷却します。氷を長い時間皮膚に直接あてると凍創(しもやけ)となります。布にくるめば溶けた水の温度は0度ですね。絞ったタオルも長時間では皮膚がふやけますからポリ袋に入れて冷やします。
▶︎C:COMPRESSIN(圧迫)
患部はみるみる腫れてきます。腫れや内出血が多いと、その吸収に時間がかかりますし、ケガの部位の血液循環の邪魔になります。当日から数日間の腫れが進行する期間は圧迫を行います。圧迫は強すぎると循環が悪く酸素と栄養が届かないことになります。適度な強さで圧迫包帯を巻いて、念のため数時間毎に巻き返るとよいでしょう。
▶︎E:ELEVATION(挙上)
患部を心臓よりも上に保って腫れや内出血、うっ血を予防する手段です。下肢の捻挫なら横になって枕に足を乗せておくことになります。
●指の捻挫
俗に「突き指」とも呼ばれます。捻ったか、急に強く伸び過ぎた、曲げ過ぎた、指先からめり込む力がかかるなど、必ずしも捻る動作だけとは限りません。指節骨を両側面でつなぐ「側副靭帯」を傷めた場合には、指が横方向に緩くて痛い症状で、局所に圧痛があります。ひどければ手術する場合もありますが、通常は副木(シーネ)で固定したり、隣の指を支えとして一緒に固定することもあります。
第1関節の突き指では、指背側の指を伸ばす腱(伸筋腱)が縦裂きになったり、全体が伸びきったりして、第1関節が曲がったまま伸びない状態となる場合があります。これを「槌指」と呼びます。この場合には第1関節で末節骨の骨折がある場合も多く、レントゲンを確認する必要があります。骨折が見えた場合には、骨の欠片の大きさやズレの具合、関節の脱臼傾向を判断して手術となる場合があります。手術とならない場合には、第1関節を反らせる位置で副木や専用装具で固定し自然癒着を待ちます。
第2関節の手のひら側に皮下出血が見えて、押すと痛い場合には関節内に小さな骨折がある場合があります。レントゲンでの確認が必要です。骨欠片が小さくズレも少ない場合には、指を曲げる腱が骨に付着する部分(掌側板)という丈夫な組織が支えてくれていますので、安静主体です。もし欠片が大きくズレがある場合には慎重な判断が必要です。
●親指の捻挫
第2指から第5指の動作は屈伸(握る開く)だけですが、親指(第1指)だけは屈伸のほかに、横に広げる動きや、捻りながら他の指と向かい合わせ(対向)てつまむ動作があり、関節の自由度が大きくできています。この特殊な構造は微妙なバランスで保たれていますから、親指の捻挫では特定の動作での痛みが残りやすいなどの特徴があります。
稀に、捻挫したら親指の付け根の関節(MP関節)が動かなくなる「ロッキング」状態が見られます。糸状の細かい靭帯が骨の角に引っかかる特殊な状態で、麻酔して整復を試みたり、本格的な手術を必要とする場合もあります。
●膝の捻挫
内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯、膝蓋靭帯(膝蓋腱)などの主な靭帯の損傷はご存知でしょう。このほかにも膝の表側裏側にはいろいろの筋肉と腱が膝を支えています。膝蓋骨と大腿骨とのすり合わせ部分では、捻挫にともなって骨軟骨骨折と呼ぶ損傷があります。膝蓋骨周囲の関節の袋(関節包)には膝蓋骨を支える構造の部分や、ヒダ状の部分があり痛みの原因となることがあります。大腿骨と下腿骨との膝関節面には関節軟骨のほかに荷重圧力分散のためのパッキングである「半月版」があり、これが傷つくと特定の動作での痛みが残ります。若い女性では膝蓋腱部分に骨との隙間を埋める脂肪の塊(脂肪体)があり、この腫れや肥大が痛みの原因になります。保存的な治療でも症状が残る場合には、胃内視鏡と似た関節鏡で膝の内部を観察して、検査しながら可能な修理を行うことがあります。関節造影やMRIも用いられます。
●足首の捻挫
とても多い捻挫です。ハイヒールや厚底靴でのひどいケガはお馴染みですね。足首は脛骨内下端の内果と、腓骨下端の外果で足をサンドイッチした構造です。ここで足を捻ると、内外果の距離を広げる力が働きます。この力は脛腓関節(脛腓靭帯)のケガとなります。靭帯の損傷するタイプや、靭帯が骨表面を剥がすタイプなどが見られます。立っていること自体は可能ですので包帯やサポーターで元の位置に押さえておく治療があります。足首は直角にすると足裏が地面と平行で、つま先を下げると小指側が余計に下がって足裏は内側を向いて斜めになります。つま先を上げると逆に足裏は外向きとなります。この特徴のため、通常の捻挫の場合には外果(外くるぶし)周囲の腫れと痛みがでます。
外くるぶし側では、前距腓靭帯と、踵腓靭帯が大事です。靭帯損傷の程度は3段階に分類されます。
Ⅰ度=痛みや腫れが軽いもの
Ⅱ度=靭帯の部分断裂があるが、関節の不安定性がわずかなもの
Ⅲ度=靭帯の完全断裂があり、関節の不安定性が見られるもの
関節をずらす力(ストレス)をかけてみてガタ(ガタツキ=不安定性)の有無を確認します。レントゲン撮影時に通常の撮影とストレス撮影をして比較確認する場合もあります。
Ⅰ度では外用剤程度で待ってみます。Ⅱ度では包帯やサポーター、テーピングなどで不安定性をカバーして必要最少限度の動きにとどめます。Ⅲ度では、スポーツ選手なら即日手術(靭帯縫合、形成、補強)という場合がありますが一般の方では専用装具やギプス固定で本来の関節位置を保ち、断裂した靭帯が自然に癒着するのを待ちます。3〜4週間のギプス固定のあとはサポーターで保護しながらリハビリの指導を受けます。靭帯や下肢の持久力の安定まで3〜6カ月かかります。こうした保存治療でも不安定性が残る場合には、日常生活や仕事に支障が大きければ改めて靭帯を作り直す「靭帯再建手術」を行う場合があります。
捻挫の予防は、スポーツ前なら十分なウォームアップとストレッチ、さらに予防的テーピングなどがあります。一般の方では、安定のよい足にあった靴をはくこと、生活習慣病としての高血圧症、糖尿病、動脈硬化症など、下肢の血行や持久力の低下、下肢マヒをきたす原因となる疾患の予防が必要です。姿勢不良も体全体の歩行バランスの崩れとして、また背骨の変形による歩行障害として転びやすくなる原因のひとつです。
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