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膀胱がん

【病気の知識】

監修:光畑直喜/呉共済病院泌尿器科部長

どんな病気

 わが国の膀胱がん患者数は、死亡数で見ると男性では悪性腫瘍の第11位、女性では14位ですが、前立腺がんに追い抜かれる前は、泌尿器科がんの中では最も多いがんでした。ただし、現在でも多くの患者さんが治癒している事実から、発生数では決して少なくありません。

 好発年齢(最も多く発生する年代)は、50歳代、60歳代および70歳代で、男女比は3:1の割合で男性に多いことが知られています。病理学的には、尿路上皮から発生するがんで、移行上皮がんと呼ばれるものがほとんどです。

どんな症状

 最初の症状として最も多いのが無症候性肉眼的血尿(目で見て赤い尿。このとき痛みや残尿感は伴わない)で、この症状は間歇的(出たりおさまったりする)であることが多いため、病院を受診するのが遅くなる傾向があります。がんが膀胱頚部(膀胱の出口付近)を塞ぐと排尿困難を来たすこともあります。

どんな診断・検査

①尿検査
 一般尿検査以外に尿中に出てきた剥離腫瘍細胞を観察する尿細胞診検査が有効です。

②腹部超音波検査
 膀胱に尿が溜まっているときに、超音波検査を実施するとがんの存在を確認できることがあります。一般診療所でも可能な検査で、痛みもなく簡単に行えます。しかし、尿貯留が充分でなかったり、凝血塊(膀胱内に存在する古い血の塊)によって、診断が困難なこともあります。

③膀胱鏡検査
 膀胱がんを診断するうえで最も基本的な検査です。成人の無症候性肉眼的血尿の患者さんは、この検査が必須です。軟性膀胱鏡を尿道から膀胱に挿入して直接観察することで、がんの有無、位置、数、形状および拡がりを知ることができます。一般病院の泌尿器科外来で手軽に実施されている検査です。男性では尿道麻酔を女性では麻酔なしで行えます。

④CT、MRI
 膀胱がんと周囲臓器との関係を知るうえで有効な検査です。また膀胱内にオリーブオイルを注入し、がんの深達度を検討(表面だけのがんなのか筋肉まで達している深いがんなのかを区別)することもできます。

⑤排泄性尿路造影(IVPもしくはIVU)
 上部尿路(膀胱より上流の尿路)の機能形態を見る造影検査です。がんが尿管口を塞ぐことによって水腎、水尿管を来たすことがあります。ときには腎盂尿管がんの合併を診断できることもあります。最近ではMRI検査で代用する施設もあります。

⑦生検
 膀胱鏡下でがん組織を摘み取り、病理組織学的診断を行います。膀胱がんの診断は、これで確定します。通常、尿道麻酔をかけて外来で行えますが、TUR-Bt(後述参照)で代用する場合もあります。

どんな治療

 表在がんと浸潤がんでは治療戦略が異なります。

①表在がん
 がんが膀胱組織の比較的浅い部分に止まっていて、内視鏡的には乳頭状有茎性の形態をとることが多く、リンパ節や遠隔転移を来たすことが少なく比較的おとなしいタイプです。ただし、上皮内がん(ある期間のみ粘膜にとどまる悪性度の高いがん)については慎重を要する。BCG注入治療が世界標準。

②浸潤がん
 がんが膀胱筋層浸潤まで及んでおり、内視鏡的には非乳頭上広基の形態をとることが多く、膀胱筋層深部まで達してリンパ節転移の頻度が高くなる、進行度が進んだタイプです。

1)経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)
 尿道より膀胱鏡を挿入して行う内視鏡手術(電気メスで腫瘍を切除する)は、5日間程度の入院、手術室での腰椎麻酔が必要ですが、開腹することなく安全に行える手術です。表在性の膀胱がんなら切除でき、治癒が可能です。膀胱がんのほとんどは、この手術が基本となります。

2)根治的膀胱全摘除術
 TUR-Btだけでは対応できない浸潤がんが適応になります。全身麻酔の大がかりな手術で、がん切除の後に引き続いて尿路変向術が必要です。通常1か月以上の入院を必要とします。また、骨盤内リンパ節郭清も行われ、男性であれば前立腺、精嚢も摘出、女性であれば、子宮、膣前壁も摘出します。

3)尿路変向術
 尿の流れ道を変化させる手術です。いくつか方法があり、それぞれメリットとデメリットがあります。それぞれの術式によって、患者さんの生活の質(QOL)が大きく左右されてきます。ここでは、代表的な3つの術式について説明します。

4)尿管皮膚ろう造設術
 尿管を直接腹壁に固定し、そこから排尿させる方法です。手術は最も単純ですが、腹壁に集尿パックを取り付けることが必要になり、皮膚炎や尿管狭窄などのトラブルを起こしやすい欠点があります。高齢や合併症を有する患者さんで、長時間の手術が好ましくない場合に行われることが多いです。

5)回腸導管造設術
 15cmほどの回腸を遊離し、それに尿管をつなぎ、一端を右側腹部の皮膚に出す方法です。尿は導管の中で回腸の運動によって自然に押し出され、尿路感染を起こしにくくなります。世界中で最も普及した術式で、成績も安定しています。ただ、尿を体内に溜めておくことができないため、尿管皮膚ろう造設術と同様に集尿パックを取り付ける必要があります。

6)下部尿路再建術
 腸管(小腸または大腸)で代用膀胱をつくり、その輸入脚(入口)に尿管をつなぎ、輸出脚(出口)に尿道をつなぎ、尿道から自然排尿できる術式です。集尿パックは不要です。根治的膀胱全摘術と合わせると泌尿器科手術の中では最も大がかりな手術で、術式が複雑で時間がかかる欠点がありますが、手術後の生活の質(QOL)は最も優れています。

7)膀胱腔内注入療法
 主に表在がんの治療、再発防止の目的で、膀胱内に抗がん剤(アドリアマイシン、マイトマイシンなど)やBCG(ウシ型結核菌)を注入します。BCGを除き副作用も少なく外来での通院治療が可能です。

8)抗がん剤療法
 進行がんで転移を認める例に適応されます。何種類かの抗がん剤を組み合わせて用いる多剤併用療法で、がんが小さくなる縮小効果は認められますが、完治させることは期待できず、延命効果については未だに結論が出ていません。抗がん剤の副作用により、悪心嘔吐、骨髄抑制、脱毛などの症状を認める場合が多いです。白金製剤+ジェムザール、MVAC、パクリタキセルが使用され、術前化療、術後化療に使用されていますが、治療の恩恵を受けることが可能な患者さんの特定が困難。

9)動注化学療法
 浸潤がんで根治的膀胱全摘術(膀胱を全部摘出する)を選択しない場合に考えられる方法です。血管造影を行い、膀胱に達している動脈にカテーテルを送り込み、ここに抗がん剤を注入します。手術に匹敵する効果を得られる場合もあります。最近「放射線照射と組み合わせることにより効果を上げることが可能である」といった報告もみられます。

10)放射線療法(多くは抗がん剤併用)

どんな予防

 がん全般に言えることですが、確固たる予防法はありません。早期診断、早期治療によって予後が向上しますので、肉眼的血尿を認めたらすぐに基幹病院(総合病院や大学病院クラス)の泌尿器科を受診することをおすすめします。

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