【病気の知識】
監修:高橋伸明/福岡記念クリニック院長・脳神経外科医
もやもや病とは変な名前の病気ですが、国際的にもこの名前で通っている正式な病名です。別名はウイリス動脈輪閉塞症です。日本人に多く日本人が発見した病気です。両側の内頚動脈の抹消がだんだん細くなり、最後には閉塞してきて、その代わりに細いもやもやした血管が脳に血液を供給するようになる病気です。脳血管造影の画像で細い血管の集まりがタバコの煙のもやもやした様子に似ているのでこの名前が付けられました。
原因は不明ですが家族性の発症例10%くらいあり、何らかの遺伝性の要素が関与していると考えられています。5歳前後に発症する若年型と30〜40歳に発症する成人型があり、女性に多い疾患です(男女比は1:1.8)。
患者数は全国で3000〜4000人で、年間400〜500例程度発症します。厚生労働省が行っている特定疾患治療研究事業(医療費公費負担制度)に該当する疾患なので、医療費の補助があります。役所や病院のソーシャルワーカーに相談してみてください。
若年型は脳梗塞や一過性脳虚血発作で発症します。ラーメンをフウフウ言って食べたときや、ハーモニカを吹いたとき、また、かけっこをしたときに、一時的に手足が動かなくなったりする一過性脳虚血発作が起こるのが典型的な発症形式です。
呼吸を早く繰り返すと、血液の二酸化炭素の濃度が減少します。そうすると、脳の血管は酸素が十分あると誤解して、血管を収縮させます。これによって、もやもや病のように脳の血管が細く血液が十分に行きわたっていない脳では、血液が足りなくなって虚血症状を起こすのです。軽い場合はすぐに回復しますが、重症ではそのまま脳梗塞になってしまいます。重症では知能障害、失語なども起こってきます。
発症が5歳前後に多いのは、ハーモニカや笛を幼稚園や学校で習い始めるからだと考えられます。乳幼児で発症する例では重症の脳梗塞になる例もありますが、5歳以上の一過性脳虚血発作では適切な外科治療を行うと、症状もなく成長することが可能です。成人型は脳梗塞で発症する場合もありますが、3分の2の例では、もやもや管が破綻して脳内出血や脳室内出血で発症します。その場合は頭痛と意識障害で発症します。また成人型では、脳動脈瘤を合併することもよくあります。
初期のもやもや病では、頭部CTやMRIでは診断しにくい病気です。小児の場合、通常の検査では脳の血管まで見ることは少ないので、CTやMRIだけですと見逃す可能性があります。疑わしい例では、脳の血管を見るMRAなどが必要です。手術を前提とした場合は、脳血管造影を行います。脳血管撮造影では内頚動脈の狭窄と脳の中に、もやもやした血管像を認めます。脳血流を見るSPECT検査を行うこともあります。脳波検査で過呼吸を行うと、徐波が遅れて出現する場合が多くあります。知能テストも定期的に行うことが望ましいと思います。もやもや病では、腎臓の動脈が細くなり高血圧を合併することもあり、全身のチェックも必要です。
若年型で一過性脳虚血発作や脳梗塞を伴うものに対しては、脳血管再建術を行います。直接的バイパス手術(頭蓋外・頭蓋内血管吻合術:浅側頭動脈中大脳動脈吻合術)や、間接的バイパス手術(脳表に筋膜・硬膜・骨膜などを敷き血管新生を期待する)を行うことがあります。脳に行く血流を増やす手術です。
これらの手術を行うと、一過性脳虚血発作は消失し、脳梗塞の発症も予防できますが、もやもや病は進行性の病気なので定期的にきちんと評価することが必要です。成人例のように出血発症する例に対して、これらの頭蓋外・頭蓋内バイパス手術が出血や梗塞を予防できるかどうかは不明で、Japan Adult Moyamoya Trial(JAM trial)が進み、長期にわたる経過観察が行われました。その結果、2014年3月、STROKEAHAで成人もやもや病の出血に対する直接バイパスの予防効果を示唆し、外科的および非外科的グループ間の有意差を明らかにしました。
もやもや病は徐々に進行する病気です。小児例や若い人では脳血管再建術が有効なので、脳梗塞を起こしていない一過性脳虚血発作症状のうちに治療を行うことが必要です。しかし、乳幼児発症の早期発症例では予後はあまりよくありません。もやもや病の軽度のものや進行しても症状の出ないものもありますが、その場合は慎重に経過を見ていく必要があります。ときどき知能低下が進む症例もあります。腎臓の動脈も細くなっている場合があり、その場合は高血圧を合併します。成人では脳出血発症例が多いので血圧のコントロールが必要です。出血の予防として脳血管再建術を行う場合もありますが、JAM trialの結果を考慮し適応は慎重に行います。
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