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【シリーズ「病名だけが知っている脳科学の謎と不思議」第16回】

突然、乳児の目と耳に障害が!19世紀末の眼科医と神経科医が格闘した「テイ・サックス病」とは?

両親が保因者なら、1回の妊娠当たり25%の高確率で罹患児が生まれる

 もう少し詳しくテイ・サックス病の病態を探ってみよう。

 テイ・サックス病は、乳幼児期に脳の発達に伴って急速に合成・分解されるガングリオシドGM2と呼ぶ脂質の急増によって起きる。つまり、ガングリオシドGM2の分解を促しながら、細胞内の不純物を除去するヘキソサミニダーゼAと呼ぶ酵素の活性力が急激に衰退すると、テイ・サックス病につながる。

 テイ・サックス病は常染色体劣性遺伝なので、両親が保因者ならば、1回の妊娠当たり25%の高確率で罹患児が生まれる。テイ・サックス病の患者や保因者は、ヘキソサミニダーゼAの活性を測定する簡単な血液検査で判別できる。現在は、保因者への着床前遺伝子診断や妊娠中の出生前検査によって容易に発見できるが、19世紀末期〜20世紀初頭では夢のような検査技術だった。

テイ・サックス病の発症のメカニズムとは?

 テイ・サックス病の発症の仕組みは難解だが、サックスの論文や最新の研究論文を手がかりに医学的に説明しよう。

 繰り返すが、テイ・サックス病は常染色体劣性遺伝によって起きる。言い換えれば、細胞の消化を促すライソゾームの酵素β-N-アセチルヘキソサミニダーゼAの活性力が失われると、タンパク質の合成に関わるHEXA遺伝子を含む15番染色体の変異が生じる。

 その結果、異常な塩基対の挿入・欠損・スプライシング(再配列)変異や、点突然変異(DNAやRNAのG、A、T、Cのうち一塩基が別の塩基に置き換わる変異)が起きるため、タンパク質の合成に異変がもたらされ、発症につながるのだ。

 テイ・サックス病は、発症する年齢によって、乳児型・幼児型・若年型・成人型の4つに分けられる。視界が欠ける、歪む黄斑変性を伴う家族性黒内障性障害をテイ・サックス病と総称するが、その後の研究者の成果を受けて、幼児期(2~5歳)は「ビールショウスキー・ヤンスキー病」、小児期(5~10歳)は「スピールマイヤー・フォークト病」、思春期前後から40歳頃までは「クーフス病」と呼ぶことがある。

 さらに、神経線維に蓄積するガングリオシドの解明が進み、欠損する酵素の種類によって、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM2、ガングリオシドGM3 に3分類されている。

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