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早期胃がん

【病気の知識】

どんな病気

 胃がんは日本人に発症する最も多い悪性腫瘍だ。最近、わずかに減少してきたとはいえ、世界的に見ても日本は胃がんの発症率が最も高い国のひとつになっている。年齢的には50代~60代での発症がおよそ6割を占め、男性と女性との比率では2対1の割合で男性に多く発症している。

 早期がんとは病変が広がっていないがんや、浸潤している深さが浅いがんのこと。胃がんもその浸潤範囲(病変の広がり、がん細胞が胃の壁のどこまで及んでいるか)が、粘膜内か粘膜下層にとどまっているものを「早期胃がん」と呼ぶ。

 胃の壁の構造は、その内側より粘膜層・粘膜筋板・粘膜下組織層・固有筋層・漿膜下組織層・漿膜と呼ばれる各層から構成されている。がんは粘膜上皮から発生した悪性病変で、早期胃がんは病変が胃の粘膜側から固有筋層に至らない部位に存在する病変だ。早期胃がんは手術などの適切な処置を受ければ9割の人は完全に治る。進行がんになるまで放置せず、早期発見を心がけてほしい。

どんな症状

 早期胃がんの初期は、痛みや不快感などの症状はほとんどない。なんとなく胃が重い、食欲がない、げっぷがひどくなるといった症状がでるケースもあるが、これらは他の胃腸病でも見られるものであり、早期胃がん特有のものではない。ただ、早期胃がんを内視鏡で見ると(目で見えるがんの状態を肉眼的形態という)、様々な形態をしており、以下のように定義・分類されている。

Ⅰ型:がんが粘膜表面から隆起しているもの。
Ⅱ型:比較的平坦な形態を示すがんで、Ⅱ型はさらに以下のように3つのタイプに分類される。
 Ⅱa型:病変の表面が隆起しているもの。
 Ⅱb型:病変の表面がほぼ平坦なもの。
 Ⅱc型:病変の表面が陥凹しているもの。
 この早期胃がんではⅡc型がほぼ6割を占める。
 また、病変がⅡ型よりもさらに陥凹したものをⅢ型と呼ぶ。

どんな診断・検査

 正確に病変が胃の壁のどこまで及んでいるかを検査(深達度診断)するためには、バリウムによるエックス線造影検査と内視鏡検査(上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラ)を合わせて行い判断する。

 さらに胃内視鏡と超音波検査法を組み合わせて診断するケースもある。超音波検査法は、超音波を胃壁にぶつけ、反射して帰ってくる超音波をとらえて胃壁の各構造を映像としてとらえるものだ。この方法によりかなり正確に胃がんの病変の深さを予想することができる。早期胃がんは早期発見により早期治療が可能だ。定期的な胃の検診を心がけよう。

どんな治療法

 以前まで胃がんは、開腹し、病変に冒された胃の一部、または全てを切除する手術が原則だった。ただし、現在の早期胃がん治療は、内腹鏡や腔内視鏡(腹部を1センチほど切開し、先端にレンズの付いた細い管を挿入し、臓器を観察・検査する器具)を使用することで、開腹手術をせずに病変の切除が可能になっている。

 内視鏡を用いた治療は一般的に、次のような場合に実施される。

①粘膜内にとどまるがんで、リンパ節転移がなく、粘膜面からみた病変の広がりが2センチ以下の隆起型がん。
②1センチ以下で、潰瘍を伴わず、粘膜内に限局する平坦または陥凹型のがんで、がん組織の悪性度が低い高分化型。

 正常の構造とはほど遠い病変で、悪性度が増加する傾向がある未分化型がんでは、原則として内視鏡治療は行わない。また、Ⅱc病変に対する一般的な内視鏡的粘膜切除術は、病変の深さが粘膜層にとどまり、分化型腺がんで、病変の大きさが1〜2センチ以下であり、潰瘍が認められないものとされている。ただし、内視鏡治療の適応は現在、さまざまな角度から検討されており、適応例は今後拡大する方向にある。

 腹腔鏡を用いた手術は、一般的にはリンパ節転移がなく、粘膜下層にまで達していないがん、さらに、分化型がんでは長径2.5センチ以内、未分化型では長径1.5センチ以内のものが適応とされている。

 また、腹腔鏡と胃内視鏡を使用して、病変に最も近いリンパ節を切除することも可能になっている。これは、内視鏡的粘膜切除術と呼ばれ、次のような手術方法を用いて行われる。

①strip biopsy:粘膜をはぎ取るように切除するため「strip」、あるいは「jumbo biopsy」とも呼ばれる。
②吸引粘膜切除法:胃内視鏡の先端にスネアと呼ばれる針金が装着された特殊なフードを付けて、病変部の粘膜を吸引してフードの中に吸い込み、吸い込まれた粘膜をスネアで切り取る方法。
③ダブルスネア法:スネアと呼ばれる針金のループを2つ用いて病変を吊り上げ、切除する方法。
④高張NaCl(エピネフリン液)を併用する方法:生理食塩水や、グリセオール液、高張NaCl(エピネフリン液)を粘膜の下に注入して、粘膜をそれ以下の組織からはがし、隆起を作り、スネアと呼ばれ針金を用いて高周波電流で切除する。

 胃がんの治療は胃切除による「根治手術」が原則だが、手術を選択できないケースなどでは放射線療法や抗がん剤などの薬物療法が行われる。主な抗がん剤はフルオロウラシル、マイトマインシC、ソルビシン、シスプラチンなど。また、体の免疫を高めるたるに、ビシバニール、クレスチン、レンチナンなどの免疫強化薬が用いられることもある。

どんな予防法

 胃がんの原因はまだ十分に解明されていない。ただ、食生活を中心とした生活習慣が大きく関わっていると考えられ、過食、早食い、大酒家、塩分の摂りすぎなどが発症リスクを高めるといわれている。また、最近は胃の中に棲むヘリコバクター・ピロリ菌と胃がん発症との関連も注目されている。つまり、胃がんの発生原因はよくわからないものの、食生活を含めた生活習慣を正しく維持し、定期的な健康診断を受けることが予防のためには最も大切なことである。

 財団法人がん研究振興財団が、すべてのがんの一次予防を目的にした『がんを防ぐための12ヵ条』を発表しているので、ぜひ実行してほしい。

①バランスのとれた栄養を摂る(彩り豊かな食卓にして)
②毎日、変化のある食生活を(ワンパターンではありませんか?)
③食べすぎを避け、脂肪はひかえめに(おいしい物も適量に)
④お酒はほどほどに(健康的に楽しみましょう)
⑤たばこは吸わないように(特に、新しく吸いはじめない)
⑥食べものから適量のビタミンと繊維質のものを多く摂る(緑黄食野菜をたっぷりと)
⑦塩辛いものは少なめに、あまり熱いものは避けしてから(胃や食道をいたわって)
⑧焦げた部分は避ける(突然変異を引きおこす)
⑨かびの生えたものに注意(食べる前にチェックして)
⑩日光に当たりすぎない(太陽はいたずら者だ)
⑪適度にスポーツをする(いい汗、流しましょう)
⑫体を清潔に(さわやかな気分で)

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