福島のスクリーニング検査で甲状腺がんと診断されたのは合計153人(depositphotos.com)
東日本大震災から6年。東京電力福島第一原発事故の当時18歳以下だった38万人を対象にした甲状腺がんのスクリーニング検査は、2016年度から3巡目に入っている――。
6月5日に開催された福島県県民健康調査検討委員会では、今回の3巡目検査で初めて2人の甲状腺がんが見つかったことが報告された。同検査では1巡目に102人、2巡目に49人が見つかっており、ここまで甲状腺がんと診断されたのは合計153人となる。
[an error occurred while processing this directive]しかし、東京電力福島第一原発事故との因果関係については「これまでのところ放射線の影響は考えにくい」と従来通りの結論で一致した。
その一方で「経過観察」とされていた事故当時4歳の男児が、その後、甲状腺がんと診断され、手術を受けていたことが市民団体の調査で判明。県によれば経過観察中は通常の保険診療となるため、本人や家族が申し出ないと実態が把握できないという。
検討委員会の星北斗座長は「調査の信用に関わるとの意見もあった。今後は不可欠な情報として扱う」と話した。
この件に関しては「意図的な隠蔽があるのではないか?」という論調の記事やSNSなどへの書き込みも数多く見受けられた。原発事故以来の人々の政府や研究者に対する不信感は依然として強いものがある。
がんは「多発」ではなく「多発見」か?
しかし実際のところ、国内外の専門家の間では「福島では放射線の影響による甲状腺がんの『多発』はまだ確認されていない」という意見が多数を占めている。
国連の放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が福島第一原発事故の被ばく影響に関連する論文の調査結果をまとめた報告書では、2013年に引き続き2016年も「事故はがんの発生率に影響していない」としている。
発症率が「年間100万人に数人」といわれる甲状腺がんが、わずか数年で150人以上の子どもに見つかったのに、なぜそういった見解ができるのか?
検討委員会が、発見された甲状腺がんに関して「放射線の影響とは考えにくい」とする根拠としては、以下のことがある――。
●被ばく線量がチェルノブイリ原発事故と比べて小さい
●被ばくからがん発見までの期間がおおむね1〜4年と短い(チェルノブイリでは5年以上たってから発見されている)
●事故当時5歳以下からの発見がない(今回1件が明らかになった)
●地域別の発見率に大きな差がない
そして、この結果は、スクリーニング効果によるがんの「多発見」であり、「多発」ではないという立場である。スクリーニング検査では、症状が出て医師へかかるようになるよりずっと早い段階の小さながんも発見する。つまり従来は見つかっていなかったがんが、多数見つかることになる。
これまでに日本で出ている罹患率は、症状を訴えて来院した患者が検査の結果にがんとわかったもの。従って、今回のような大規模なスクリーニングと通常のがんの罹患率を単純に比較することはできない。
仮に福島以外の場所で、若年者を対象にした大規模検査ができれば、甲状腺がんの実態が判明するかもしれない。ただ、そこには倫理的な問題や実際の訴えが何もないのに、甲状腺がんを発見された人に対する対応をどうすべきかなど、問題は山積だ。実施は難しいだろう。