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【本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言! 第8回】

『アンナチュラル』のビル火災 現役女性医師が読み解く複数の焼死体の判別法

10人の焼死体に他殺体が紛れ込んでいる!?(depositphotos.com)

「焼死」とは火災などによる死亡の総称です。焼死体には死因が焼死である死体のほかに、他の何らかの死因による死亡後に焼却された死体(焼損死体)が含まれる可能性があり、正確には「焼けた死体」というべきものです。

 今回のドラマでは10体の焼死体が登場し、9番目のご遺体の死因を廻って、殺人事件の可能性が浮上していましたね。

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焼死体の判別ポイントは3つある

 法医学業務において、焼死体は死因が焼死なのか否かの判断が最も重要とされています。そこで重要な所見が生体反応の有無です。要するに生きているときに火の中にいたのか否かということです。それを示す所見は教科書的には3つあります。
①熱傷深度
 これは第4話のコラムにも書きましたが、火傷はその深さによってⅠ度(表皮熱傷)、Ⅱ度(真皮熱傷)、Ⅲ度(全層熱傷)、あと法医学的なⅣ度(炭化状態)に分けられます。このⅠ度とⅡ度は血液や体液の循環がないと生じない傷のため、Ⅰ度とⅡ度熱傷があるかどうかを見極める必要があります。
②炭粉吸引
 これは要するに煤(すす)を吸って気道熱傷があるかどうか、と言い換えることもできるでしょうか。火の中で息をしていたら煤などが呼吸器官内に入り込む、ということです。
③血中の一酸化炭素濃度の上昇
 第2話で書きましたが、物が燃えたときに出る一酸化炭素を吸ったときには血中の一酸化炭素濃度が上がり、皮膚も死斑もサーモンピンクになります。火の中で息をしていなければ一酸化炭素は血中には入らないわけです。

 とは言っても、通常、これら生体反応は環境要因にも左右されてしまうので教科書通りに行かず、屋外・屋内・風通しによっても焼損の程度と生体反応は一致しないのです。

 死斑なのか火傷なのか、内出血なのか煤なのか……。ひとつひとつ皮膚をめくり、組織を鑑定しながら丁寧にご遺体の言葉をつかみ取っていく作業をしていかなければならないのです。

 今回は焼けてない皮膚をよく視診することで、紐の痕や銃創を見抜いていました。劇中では内視鏡の傷と言っていましたが、脇腹にできるのは腹腔鏡の傷でしょ?と突っ込んでおりました(笑)

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