福岡市の救命可能な心肺停止の救命率は全国平均の約3倍(shutterstock.com)
各地域の心肺停止患者の救命率を比較することで、その地域の救急医療能力を見ることができるはずだ。私は福岡市内の病院に勤務しているが、福岡市の救急医療能力は他の都市に比べて格段に高い。
この原因を考察することで、地域の救急医療能力の向上を図る糸口をつかみたい。
[an error occurred while processing this directive]臨床現場で最も重篤な病態(死亡に最も近い状態)は「心肺停止」である。そして、心肺停止患者を救命するためには、医療従事者(医師、看護師、救急救命士など)の努力だけでは不十分だ。
心肺停止患者に遭遇した一般市民(バイスタンダー)の協力が必要となる。当然ではあるが、一般市民から救急隊に引き継がれ、かつ救急病院に搬入され病院内治療が行われる連携システムも必要である。これらの質が上がることで、心肺停止の救命率は向上する。
「心肺停止」の状態とは?
考察を始める前に、まず「心肺停止」および「心肺蘇生」について理解してもらわなければならない。
心肺停止とは「意識なし、呼吸なし、循環なし」の状態をいう。「意識なし」は全く反応がない状態。「呼吸なし」は「無呼吸」または「死戦期呼吸(あえぎ呼吸)」の状態。
無呼吸とは、呼吸運動が全くない状態で、胸と口の動きが全く認められない状態。死戦期呼吸(あえぎ呼吸)とは、連続性も規則性も認められず、あえいだ呼吸が不規則な状態。この死戦期呼吸は最終的に無呼吸になる。
「循環なし」は頸動脈(または大腿動脈)が触れない状態。循環確認は通常5秒以上10秒以内で行う。もし10秒しても評価不能な場合は「循環なし」と判定する。
また、心肺停止の予後を表す医学用語に「蘇生率」「救命率」がある。蘇生率は心拍(循環)が戻る割合のこと。呼吸や意識が戻らなくても心拍(循環)が戻れば「蘇生された」という。
なお、循環および呼吸までは戻ったが意識が戻らない場合を「植物状態(ねたきり状態)」という。これに対して救命率は、心拍(循環)・呼吸・意識の全てが戻る割合のことで、社会復帰率に近い概念だ。
心肺停止に対する最終目的は救命であり、その必要条件として蘇生がある。つまり蘇生は救命のための第一歩である。そして、救命率を上げるために何をしなければならないかが最も重要であり、その方法を修得し実践することが必要となる。
心肺停止には救命可能な場合と不可能な場合がある
急変による心肺停止の原因はほとんどが急性心筋梗塞である。その場合、心肺停止直後はほとんどが除細動の適応がある「心室細動」か「無脈性心室頻拍」である。つまり救命の可能性がある波形だ。しかし、この状態がある時間(通常十数分)以上放置されたり、心臓疾患以外の原因で心肺停止になった場合は、一般的に除細動の適応がない波形、つまり「無脈性電気活動」や「心静止」となり、救命はほとんど無理な状況になる。
このように、心肺停止には救命可能なものと救命不可能なものがある。最初から救命不可能な心肺停止はどうしようもないが、救命可能な心肺停止をどう救命するかが重要である。
救命可能な心肺停止は全体の約10%である。救命可能な心肺停止は発症後十数分以内であるため、一般的には急変現場が一般市民に目撃され、かつ一般市民が蘇生行為を行うという条件が整わなければならない。
現在、日本の心肺停止患者の救命率は約1~2%であり、ほとんどの人が助かっていない。この数字だけを見ると、絶望、あきらめ、モチベーションの低下しか起こりえないように思われる。
しかし、全体の約10%を占める救命可能な心肺停止患者の救命率は全国平均で7~8%であり、各地域でかなりの差が出ている。この救命可能な心肺停止の救命率を比較することで、各地域の救急医療能力を比較することができるのではないかと考えている。