読み聞かせで、母親は「理性の脳」、子どもは「心の脳」が活発に(depositphotos.com)
子どもに本を読み聞かせることは、豊かな感情をはぐくみ、言語能力がアップすることはよく知られている。しかし、効果は一方向のものではない。本を読んであげる大人も、自己肯定感が高まり、社会的スキルも向上するようだ。
ここでは、「本の読み聞かせ」について行われた国内外の研究を紹介しよう。
[an error occurred while processing this directive]東京大学大学院教育学研究科・教育学部のサイトでは、「読み聞かせの影響」について情報がまとめられている。その中で、日本大学大学院総合科学研究科教授の泰羅雅登(たいら・まさと)氏(当時)らの研究チームが行った、読み聞かせ中の脳の働きを調べる実験が紹介されていた。
母親は「理性の脳」が、子どもは「心の脳」が活発に
この実験の結果、本を読む母親は大脳の「前頭前野」が活発に働き、聞いている子供の脳では「大脳辺縁系」が活発に働いていることがわかった。
ここで大脳の構造を簡単に説明しよう――。大脳は「大脳新皮質」「大脳辺縁系」「脳幹」の3つで構成されている。大脳新皮質は、大脳の表面部分にある。思考や判断といった、私たちがよりよく生きるための知性に関係することを司る。
大脳辺縁系は、大脳の内側にある。意欲や情緒といった、本能に近い感情に関係することを司る。脳幹は、脳と脊髄をつなぎ、生命維持に関係することを司る。
怒りなどの感情をコントロールする機能や理性的な判断、論理的な思考、コミュニケーションなどを行うのが、大脳新皮質の中の「前頭葉」と呼ばれる場所だ。
前頭葉の前頭前野は、サルよりもヒトのほうが特に大きく発達している。実体のないものを理解したりイメージしたりする抽象的な思考は、前頭前野で行われている。
喜怒哀楽を生み出す大脳辺縁系を、泰羅氏は「心の脳」と呼び、次のように分析している。
「子どもは読み聞かせを通じて、豊かな感情、情動がわき上がっているのだろう。脳は使うことで発達する。読み聞かせは、結果として子どもの豊かな感情を養い、『心の脳』が育つために役立っているのだろう」
加えて、母親は1人で音読をしているときよりも、子どもを相手に本を読んでいるときのほうが、前頭前野の活動がより活発になっていた。特に「コミュニケーションで活動する部分」が働いていることがわかったという。
「子どもも大人も、ともに楽しめることが読み聞かせのよさ。親が子どもの表情を見ながら、そして気持ちを考えながら話す言葉には、大きな力があるのだと思う。読み聞かせは親子の絆をつくるよい機会となるでしょう」(泰羅氏)
読み聞かせは、ただ子どもを喜ばせるだけでなく、私たち大人の側にもコミュニケーション力をアップできる恩恵が受けられるのだ。