検体の取り違えはなぜ起こる?(shutterstock.com)
手術の必要がないのに乳房を切除された――。
病理検体の取り違えは、重大な医療過誤につながる。別人の標本が登録されて、不要な治療や手術を受けたり、その逆が起きたりすることで、患者が不利益を被る。
[an error occurred while processing this directive]2015年12月、千葉県がんセンターは、県内に住む30代の早期乳がん患者が、すぐに手術の必要がないのに右乳房をすべて切除するミスを起こしたと発表した。細胞の検査結果を、50代の進行性の乳がん患者と取り違えたのが原因だという。
また、今年4月には、高砂市民病院(兵庫県高砂市)による検体の取り違えで乳がんと誤診され、右乳房の一部を切除した20代女性が、市に約1850万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたことが報じられた。手術が必要な50代女性の検体と取り違えたことが判明しており、市民病院側はミスを認めて女性側に謝罪していた。
検体とは、検査の対象とする人体から採取されたものをさす。病理検体は、臨床検査技師によって病理標本が作製されたあと、病理医が顕微鏡で観察して診断書が作成される。
臨床医の採取から病理診断書を受け取るまでの過程の多くが手作業。マニュアル・アナログの〝ローテク〟が多く、ヒューマンエラーによる検体の取り違えが生じるリスクなくならないのだ。
日本の医療の解決すべき課題として、病理医の不足、病理部門の体制のもろさがある。前述の千葉県がんセンターの取り違え事故では、院内事故調査委員会が、問題点として、病理部門の体制の脆弱性を指摘している。
こうした事件の多くでは、病理医だけでなく臨床医も、「あれっ?」と思う瞬間があったに違いない。そのタイミングで確認作業ができていれば、単純な取り違え事故の大部分は防げたはずである。
「臨床医が病理診断部門に問い合わせる」「病理医が病棟に電話する」これだけでも効果的だ。術前に行われる症例検討会・カンファレンスで、臨床医と病理医が顔を合わせていたら、必ずやこの取り違えは防げていただろう。
厚生労働省の調査によると、2014年に全国の病院で病理診断が行われた件数は約375万件。05年から1.75倍に増えている。増加の要因は、病理診断をするがんなど病気の種類の増加や、求められる役割の広がりにある。作業量に対して病理部門の体制が追いついていないのが現状なのだ。