ケトン体が人類を救う?
食事を摂ると、炭水化物(糖質)は消化・分解されてブドウ糖になる。だが、炭水化物に由来するブドウ糖だけをエネルギー源にしていると、体内のブドウ糖は不足する。ブドウ糖が不足すると、肝臓は中性脂肪を分解して脂肪酸を作る。このときに肝臓が脂肪酸から合成するエネルギー源がケトン体だ。
ケトン体は、体内のブドウ糖が不足したり、糖代謝のバランスが乱れたりして、正常に血糖値をコントロールできないときに生成される。つまり、体内のブドウ糖が不足すると、中性脂肪がエネルギー源に使われる。だが、炭水化物の摂取が減少し、ブドウ糖が枯渇するすると、その代替エネルギー源としてケトン体が使われるのだ。ブドウ糖の代替エネルギーになるケトン体は、アセトン、アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸の総称だ。
[an error occurred while processing this directive]いいかえれば、ケトン体は、生命の維持に欠かせない心臓や腎臓などの臓器(不随意筋)や骨格筋(随意筋)のエネルギー源として使われる。
脳の主なエネルギー源は、もちろんブドウ糖だ。先述のように、ブドウ糖が不足すると、肝臓は中性脂肪を分解して脂肪酸を作る。だが、脂肪酸は血液脳関門を通過できないので、脂肪酸は脳のエネルギー源にならない。脳の主なエネルギー源になるのはブドウ糖だけだ。だが、ブドウ糖が枯渇したときは、脳のエネルギー源が必要になるため、肝臓は脂肪酸を分解するときに、ケトン体を生成する。
ケトン体は水溶性なので、細胞膜や血液脳関門を簡単に通過し、脳の唯一のエネルギー源として利用される。
また、ケトン体は、糖尿病の指標となることから、糖尿病の検査にも活用されている。糖尿病に罹ると、インスリンが生成されず、ブドウ糖をエネルギー源として使えないため、ケトン体が作られ、そのエネルギー源となるのだ。
ケトン体は、血液中の濃度が一定量以上になると、尿中のケトン体が増加する。血液中のケトン体が増加し、標準値を超える状態をケトーシスと呼ぶ。宗教上の理由で断食する人や、つわりで食事がとれない妊婦などは、ケトーシスになりやすい。ケトーシスの状態では、脂肪が分解され、ケトン体が主なエネルギー源として使われることから、ダイエット効果が期待されるひとつの根拠になっている。
さらに、ケトン体は酸性なので、ケトン体が血中に増えると、血液や体液が酸性になるケトアシドーシスの状態になる。とくに、インスリンが分泌できなくなったり、その分泌量が減少する1型糖尿病患者に起こる糖尿病性ケトアシドーシスは、嘔吐などの症状を引き起こすため、進行すると意識障害や死に至るリスクがあるとされている。