『病みながら老いる時代を生きる』(吉武輝子/岩波ブックレット)
肺気腫、膠原病、そして大腸がんを体験され、2012年に80歳で亡くなられた、まさに「病気のデパート」である評論家の吉武輝子さんによる、病気との付き合い方の指南書。がんの再手術に備えて「派手なサイケ柄の越中ふんどしを手に入れ」、執刀医を驚かせたという記述に、これぐらいの茶目っけを残して手術に臨みたいと思った。吉武さんには、闘病記『生きる。一八〇日目のあお空』(海竜社)も上梓されているが、どちらも看護師で作家でもある娘の宮子あずささんとの会話が楽しい。「誰かに気合いを入れてほしい」と思っている人向けの闘病記です。
[an error occurred while processing this directive]
『がん告知――解けなかったパズル』(小野厚子/立風書房)
本書のテーマは「がん告知」。小野厚子さんは、夫の大腸ポリープが悪性であること、また、手術によってストーマ(人工肛門)になることを本人に伝えます。「夫の人生は夫自身のもの。それを私と主治医のひそかな話で決めてしまいたくない、するべきでない」という思いから......。告知後、夫は「君は黙っていられない人だから」と思いやりのある言葉を返してくれます。しかし、放射線治療と外科手術により病巣を切除し、ストーマが設置されるものの、肝臓や膀胱への転移もあり、執刀医によると余命は1年か2年。妻は手術後の病室で、微妙な会話の駆け引きにより、夫に転移があったことも伝えています。2年半の闘病を経て44歳で夫が永眠してからも、「伝えて良かったのか」と彼女は夫に問いかけています。夫婦のどちらかが病になり、患者自身ではなく配偶者のみに予後が伝えられた場合、夫が、妻が、「どこまで伴侶を知っているか」が、さらには「自分自身の強さ」が、試されるのではないでしょうか。
『医者が癌にかかったとき』(竹中文良/文春文庫)
著者は、日本赤十字社医療センターの外科部長で、日本赤十字看護大学教授を経て同大学の客員教授となったの竹中文良さん。55歳の夏の夜、たまたま左下腹にシコリを発見します。結果は「S字結腸がん」。勤務先の病院で手術を受けた竹中さんは、はじめて「切られる側」の心境を知ります。本書は、自身の闘病に始まり、やがて過去に出会った多くのがん患者、特に医師の患者たちの思い出に言及しながら、医療問題について考察しています。まさに「名著」と呼びたい一冊です。竹中先生は、患者と家族に対する支援を目的とした「ジャパン・ウェルネス(現・がんサポートコミュニティー)」を創設。2010年に逝去されました。
『キャンサー・ギフト――ガンで死ねなかったわたしから元気になりたいあなたへ』(高橋ユリカ/新潮社)
高橋ユリカさんは、早稲田大学第一文学部からオレゴン州立大学への留学経験を持つジャーナリスト。夫は耳鼻咽喉科の勤務医で、息子が小学校に入学したばかりの35歳のとき、エイズ問題を取材していた彼女の体に異変が起こります。病名は、S字結腸がん。手術は無事に終了しますが、闘病の描写は本書の4分の1程度。入院中に出会ったクローン病のマサコちゃんや、フラメンコダンサーで末期がんのケイコさんの姿に励まされ、ホリスティック医学についてリサーチし、やがて「近代医学の枠組みから離れたところで、大きな意味でのセカンドオピニオンを求めてみるべきではないか」と考えるようになります。近代医療の限界が見えてくる中で、ジャーナリストとして考えた今の時代のがん問題を指摘する好著です。