水分補給は「喉が渇いたから」では遅い(depositphotos.com)
「彼はステージ上では一滴の水さえ飲まないらしい」という驚愕の都市伝説を問われて、「普通のことだよ、飲まないといけないものなの?」と応じたのは元ビートルズのポール・マッカトニーだ。
当人からすれば、アマチュア時代からの習慣が根付いただけの話らしいが、いわゆる「よいこの皆さんはマネしないように」的なエンタメ魂ゆえの特殊例だといえるだろう。
[an error occurred while processing this directive]というのも、ヒトは通常、体内の2%の水分量が失われると、喉の渇きを覚えるもの。これは脳の視床下部にある「口渇中枢」の指令による自覚であり、その人の体内では既に多くの水分が失われていることへの警告ともいえる。
しかも、それが運動中である場合、この「喉の渇きを感じてから」の水分補給対策では、脱水状態に陥りやすい――。
そればかりか、米アーカンソー大学水分補給科学研究所所長であるStavros Kavouras氏らが最新実験から導き出した見解によれば、パフォーマンスが低下する可能性も否めないそうだ。
『Medicine ando Seience in Sports and Exercise』(3月5日オンライン版)に掲載された報告論文によれば、従来、一部の研究者たちの間では「(脱水状態ではなくて)喉の渇きそのものが、運動時のパフォーマンスを低下させる主な要因である」と考えられてきた。
心理的要因説を覆す新知見
ところが、今回の研究を担ったStavros Kavouras氏らの考えはより慎重で、そういう従来の見方を「それは喉が渇くと惨めな気持ちに見舞われて、やる気が失せてしまうからではないか的な、やや浅薄な考えに過ぎないだろう」と排して実験に臨んでいる。
また、一方では「脱水状態が身体に悪い」という認識がパフォーマンス低下をもたらしているのではないか、との要因説も一部で定着していた。
しかし、この見解に対しても、「これも当人が脱水状態にあることが分かっていると、パフォーマンスが低下させてしまうのではないかという(心理的/先入観的な?)考え方だろう」と、アーカンソー大の研究陣は冷静に対処している。
具体的には、これらの要因による影響を取り除けるような方法論で、彼らは今回の実験を敢行したと自信を込めて報告をまとめている。
実験の詳細はこうだ――。まずは「気温35℃/湿度30%」の高温で乾燥した環境下で、7名の自転車競技選手たちに集ってもらい、彼らの協力を仰いで比較実験が実施された。
7人を任意な2班に分けて、エルゴメーターのペダルを漕いでもらった。いずれも盲目(Blind test)下で臨んだ2班の内訳の相違点はこうだ。
①非脱水群=流れた汗と「同量の水」を経鼻胃管を用いて、直接、胃に補給された選手例。
②脱水群=脱水状態必至の「不十分な量」の水しか補給されなかった選手例。
なお、①と②の両群の被験者共に「自然な喉の渇き」を抑えるため、各自5分毎に25ml(ティ―スプーンで凡そ5杯分相当)の水分補給を行なってもらった。
さらに2時間のインターバルを挟んで、各選手の運動ペースが一定に保たれる状態に戻った頃合いを見計らい、全員に5km全力走のタイムを競ってもらった。ちなみに皇居マラソンの距離が、およそ5km相当である。