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【連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」第18回】

糖質制限すると死ぬかもしれない「脂肪酸代謝異常症」の患者は3万4000人に1人の割合

先天性疾患で「糖質」を食べたら死に至る人たちも(depositphotos.com)

 生活習慣病の多くが精製糖質の過剰摂取で誘導されている――。これは間違いないと私は思っています。ですが「糖質制限なんかしたらダメ! 命の危険があるよ」と主張される医療関係者もいらっしゃいます。

 たしかに、糖質制限したら死んでしまうかもしれない体質の人はいらっしゃいます。しかし逆に、糖質60%の食事をしたら死んでしまうかもしれない体質の人(基本的には数万人に1人の先天性疾患)もいます。今回はそういう方々について紹介します。

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新生児のマススクリーニングで判明した「脂肪酸代謝異常症」

 私たちの持っている遺伝子配列は、ひとりひとり異なります。遺伝子を父親と母親から半分ずつ受け継いでいるので、両親とも異なる組み合わせの遺伝子を持ちます。さらに、卵子や精子ができる減数分裂のとき、遺伝子の組み換えも起こるので、親の遺伝子配列とも異なる部分が増えます。

 このため、両親は病気になる遺伝子変異を半分ずつしか持っていないのに(ヘテロ)、子供に変異が両方そろったり(ホモ)、両親では見つかっていない遺伝子変異が突然子供に発生すること(特発性)があります。これがエネルギー代謝に関わる遺伝子で起こった場合、すぐに食事内容に対処しないと発達障害が起こり、場合によっては死んでしまう可能性があります。

 出生後すぐに赤ちゃんの血液を調べて異常を発見するために、昔から「ガスリー法」などのスクリーニングが行われていました。2015年からは「タンデムマススクリーニング法」が導入され、数十種類の先天性疾患が早期発見できるようになりました。

 この中には、糖質制限をすると危険な「脂肪酸代謝異常症」の疾患群があります。逆に、学校給食のような糖質60~70%の食事をすると死の危険にさらされる、尿酸回路に異常がある人もいます。また、脳障害を回避するために厳しい糖質制限食が必要となる方々もいらっしゃいます。

 幸い人間は脂質(ケトン体)と糖質(ブドウ糖)の両方をエネルギーとして利用できるので、いずれの体質の方々も、それぞれに対応した食事にすることで健康に生きていくことができます。代表的な病気についてそれぞれ説明します。

長鎖脂肪酸代謝異常症の人は糖質制限で死に至る可能性も

 我々が脂肪酸をエネルギーにするときには細胞内のミトコンドリアを使う必要があります。この中のTCA回路を回すことで、脂肪酸をエネルギーに変えることができるのです。しかし、長い脂肪酸をミトコンドリア内に持ち込むためには、まずβ酸化という過程を経る必要があります。

 このβ酸化やその前後に関わる酵素などに先天的な異常があると、長い脂肪酸を活用できません。この病気が「長鎖脂肪酸不耐症(代謝異常症)」です。

 この経路に関わる酵素はたくさんあるので、遺伝子異常も(理論上は)酵素の数だけあります。日本人の場合、毎年10人から50人の新しい患者さんが見つかっているので、出生数を単純に年間100万人と考えると2万人から10万人に1人の割合で発症する先天性疾患だと考えることができます。

 現行のスクリーニングの予備検査として日本人の新生児195万人について調査したデータでは、脂肪酸代謝異常症の患者さんが57人見つかりました。ということで、3万4000人に1人の割合でこの体質を持つことになります。

 この病気の方は、脂肪をたくさん食べると処理しきれないため、脂肪が肝臓に蓄積され、肝機能障害を発生させます。また、体脂肪をうまく利用できないので、糖新生能力が落ちます。たとえば、病気で絶食状態に陥って丸1日糖質を食べないでいると、命に関わる低血糖状態に陥ります。こまめに糖質摂取して糖質エンジンを回し続ける必要があるのです。

 したがって長鎖脂肪酸代謝異常症の診断を受けた方は、母乳は中止して、この病気に対応した脂肪酸成分のミルクに変更し、離乳食も糖質中心にして脂肪の過剰摂取を避ける必要があります。

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