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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第60回】

ショパンの死因が解明?コニャック漬けの心臓をDNA鑑定できない3つの理由

ショパンは39歳の若さで早世(depositphotos.com)

 ポーランドのワルシャワに生まれた不世出の作曲家、フレデリック・フランソワ・ショパン(1810年3月1日~1849年10月17日)は、39歳の若さで早世した。死後169年が経ち、その死因の謎に迫った新たな研究論文が、米医学誌「American Journal of Medicine」2月号に掲載される(「AFPNews」2017年12月31日)。

肺結核か? 嚢胞性線維症か?

 ショパンの死亡診断書によれば、ショパンの死因は「肺結核」とされている。だが、医学的な論争が今も絶えない。

 たとえば、2011年に出版された『Chopin's Heart』(Steven Lagerberg)によると、ショパンを苦しめた疾病は肺結核と推論している。しかし、それに先立つ2008年、ポーランドの医療専門家らは、病弱だったショパンは「嚢胞性線維症」だったと指摘している。

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 以来9年、コニャックが入った瓶の中で眠りについていたショパンの心臓に、遺伝子工学の光を当てたのは、ポーランドの分子・臨床遺伝学の権威、ミハウ・ビット教授らの研究チームだ。

嚢胞性線維症を抱えて39歳まで生存できたかは疑わしい

 密閉された瓶を開けることができないため、研究チームは2014年に撮影された高解像度画像を診断し死因の究明を試みた。

 ビット教授によると、病変は長いあいだ信じられていた肺結核と推察できるものの、ショパンの心膜に肺結核に起因する合併症の典型的な病変を確認した。そして、ショパンが嚢胞性線維症にかかっていた可能性はあるが、肺結核だった可能性のほうがはるかに高いと説明している。

 一方、記録によると、成人期のショパンは身長は170cm、体重40kgの痩身。このような慢性的な体重不足は、嚢胞性線維症の典型的症状だとされる。ただ、19世紀中頃の治療水準を考えれば、嚢胞性線維症を抱えて39歳まで生存できたかどうかは疑わしいかもしれない。

 ちなみに嚢胞性線維症は、イオンと水の輸送を調節するCFTR遺伝子の変異が原因となる常染色体劣性遺伝疾患だ。CFTR遺伝子の異常があると、輸送調節機能が障害されるため、全身の外分泌機能が損なわれる。

 その結果、消化管や気道の分泌が異常になることから、膵外分泌異常による脂肪吸収不全をはじめ、栄養障害、腹部膨満感、排痰困難、難治性気道感染、慢性呼吸不全、発育障害(身長は正常、体重が増えない)などに至る。

 発症は白人に多く、日本人はきわめて稀だが、日本では「膵嚢胞性線維症」の疾患名で難病登録されている。しかも、根本的な治療法はない。呼吸器感染症と栄養状態のコントロールが治療の主流だが、肺移植や肝移植が必要となる場合が多い。

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