病理解剖後の臓器標本が産業廃棄物に!?(depositphotos.com)
みなさんは「解剖学」という言葉から、どのような事柄を想像されるだろうか?
解剖学と一括りに言っても、その内容は千差万別だ。筆者のように主に研究や教育を行う系統解剖学、肉眼解剖学・組織学(顕微解剖学)などの教室は「解剖学教室」や「解剖学講座」と呼ばれている。これらの教室とは別に大学病院や他の医学部、歯学部の講座でも解剖を行っている教室がある。
[an error occurred while processing this directive]一つ目は「法医学教室」だ。ここで行われる解剖は一般に「法医解剖」と言われ、テレビドラマなどでも取り上げられることがあるので、ご存知の方も多いだろう。
ドラマの影響で「警察の捜査に参加している」と思っている方もいるかもしれないが、ここでは主に異常死をされた方々の死因の究明や、その方の死に至る過程を科学的に解明し、事件性の有無を調べたりもしている。
二つ目は「病理学教室」だ。病気により変性した部位の確認をしたり、変化した生理機能を確認したりする、いわゆる「病理学」といわれる学問分野だ。主に検査や手術の時の検体を病理的な術式で確認して、その病因の解明に努めることが主な役割になる。
また、患者さんが亡くなった場合に行われる解剖を「病理解剖」というが、これに関しても、数年前に連続ドラマになったのでご存知の方は多いだろう。
このように一言で「解剖」と言っても、「系統解剖」「法医解剖」「病理解剖」と、3種類の異なる解剖が存在する。
解剖学実習に用いられた遺体は、どのように火葬されるか?
テレビ朝日系列で放送されているドラマ『科捜研の女16・File.9』で、法医解剖を断固として拒否するという人のエピソードが描かれていた。このエピソードでは法医解剖された遺体の復元が主題となっており、ザックリと言うならば、いったん人体から摘出た臓器は元の位置に戻すのが難しいから細かくして詰め込んでおくというのである。
この「摘出した臓器をできる限り元の位置に戻す」ということは、筆者自身の行っている肉眼解剖学の研究や授業で、学生に対して常々言っていることである。
解剖学実習に用いられる遺体は、まずは葬儀などの後に医学部、歯学部の解剖学関連施設で防腐処置され、解剖実習までの半年から数年間、保管される。実習終了後は、場合によって一部の臓器を標本や研究のために保管することがあるが、多くは火葬となる。
ちなみに、解剖学実習に用いられる遺体についてのアルバイトが、昔から都市伝説のようにチラホラと言われているが、そのようなアルバイトは存在しない。
献体された方の公文書の流れを説明すると、死亡すると医院、病院、療養施設の医師または歯科医師名での死亡診断書が作成される。この死亡診断書の左半分は、故人の遺族などが記載する死亡届となっている。
この書類を関係する市町村の役場に提出すると、火埋葬許可書が下りる。この場合、火葬予定日等は、火葬場の日程が決まり次第すぐに記載されるが、献体の場合だと火葬日がどれくらい先になるのか全く不明なので、概ね「○○大学医学部に献体」とかと記載されるようだ。
解剖学実習後は、解剖前の状態にできる限り戻す。そして、荼毘に附される。この場合は火埋葬許可書があるので何の問題もないが、研究目的の標本などで保管された場合は研究終了後に、この採取部位だけで火葬されたりする。
この時の火葬は、火埋葬許可書の無い状態だ。研究等に用いられた献体の一部に関しては、標本火葬という方法で火葬をされる。筆者の所属していた研究室では、解剖学実習後の火葬は教室員総出で、その年度の実習体を火葬した。
また、研究に用いられた保管の標本は、出入りしている葬儀社にお願いして標本火葬を行っていた。