「悪意」の暴走にどう向き合う?(shutterstock.com)
「夜は門が施錠され、飛び越えないかぎりは中に入れないはず。建物だって施錠されているのに……」。入居者家族会の副代表はそう語り、凄惨な現場を背にして絶句した。
平成に入ってから死者数では最悪の無差別殺人の現場となってしまった社会福祉法人かながわ共同会「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)。県の指定管理者が運営を受託し、4月末時点で149人の知的障害者(10~70代)らが長期入居中だった。
[an error occurred while processing this directive]2つの居住棟には夜間も1棟あたり2人の職員が配置されていたが、園内すべての鍵を開けられるマスターキーを持つ職員はいなかったという。
しかし、同業者として全国紙の取材に応じ、同園職員の気持ちを代弁したかのような次の談話がなんともやりきれない。
「ハンマーでガラスを割れば入ってこられる。悪意を持った人が侵入して殺傷する事件が起きるなんて考えていなかった。有効な防犯対策は今すぐ思いつかない」(朝日新聞7月27日付朝刊)
相模原市消防局が「刃物を持った男が暴れている!」との通報を受けたのが26日午前2時56分。6分後に現場到着した消防・救急の6人(及び警察官2人)は、複数犯の可能性を警戒し、防刃ベストや防火服を装備して暗い施設内に入ったという。
警察官らの到着と入れ替わるように、植松聖容疑者(26)が津久井署に単身出頭したのが午前3時ごろ。容疑者は、今年2月に衆院議長宛に持参した手紙や、かつての同僚職員に対し、「重度障害者の大量殺人はいつでも実行できる」と示唆していた。
とはいえ、実際に〈悪意〉が暴走すれば、施設の周囲に建てられた塀も、施錠も、職員数も、そして後手の通報さえもが空しく映る。
高齢者や障害者の施設がまた狙われる?
老人ホームなどの介護施設を狙った犯罪は、過去にも例がある。2005年、中国人窃盗団が関東・東北地方の老人ホームを狙った計120件の窃盗事件の被害総額は5億4000万円(読売新聞:2005年9月21日付)。
また2006年、日本人や在日韓国人らも属する巨大窃盗団による23都道府県下の老人ホームや病院などを狙った犯行例では同6億7500万円(計730件)という膨大な被害実態が明らかにされた(毎日新聞:2006年9月28日付)。
厚生労働省によれば、障害者の入居サービスを提供している施設は全国で2617。政府が「脱施設(=地域ぐるみの在宅利用の充実)」を掲げるなか、これらの施設も減少傾向にあるとはいうものの、13万1565人の利用がある(2016年3月時点)。
役人の机上論は〈地域開放〉を奨励し、従来の入居者家族や見舞客、出入り業者などに加えて不特定多数の人間が入りやすい環境作りを目指す施設も最近は少なくない。事件が起きた津久井たまゆり園も積極的な地域交流ぶりが好評で、入居者たちも地元で歓迎されていたという。
しかし、その開放性が、〈特異な悪意〉の持ち主を呼び込み、犯罪現場になってしまったのも哀しい現実だろう。今回の凄惨な事件のように、施設内の事情にも精通しているOB職員が抱いた悪意の前には打つ手もないが、防犯は人員を増やせば解決できるものでもない。
ましてや重労働・低賃金・将来性ゼロと三拍子揃って、〈高離職率の象徴〉でもある介護職。施設内での窃盗案件や認知症の入居者からの不条理な暴言や暴力、移乗作業による慢性腰痛や昼夜を問わないトラブルなど、「外敵」以前に迎えうつ対象に疲弊している職員が大勢だろう。