和歌山毒物カレー事件から18年(shutterstock.com)
1998(平成10)年7月25日夕刻、和歌山市園部地区で行われた夏祭りの会場でカレーを食べ、腹痛や吐き気などを訴えた67人が病院に搬送される。自治会の会長、副会長、高校1年生女子、小学校4年生男子の4人がヒ素中毒で急死した。
保健所は食中毒を疑ったが、吐瀉物を検査したところ、青酸反応が出たため、和歌山県警は青酸中毒と判断。警察庁科学警察研究所の再調査によって亜ヒ酸の混入が判明した。
[an error occurred while processing this directive]10月4日、和歌山県警は知人男性に対する殺人未遂と保険金詐欺の容疑で林眞須美容疑者を逮捕。12月29日、和歌山地検はカレーへの亜ヒ酸の混入による殺人と殺人未遂罪で起訴。容疑を全面否認のまま公判へ。2009(平成21)年4月21日、最高裁第三小法廷は上告棄却。5月18日、死刑確定。現在、林死刑囚は大阪拘置所で無実を訴え、再審請求中だ。
ヒ素の鑑定方法は正しかったのか?
和歌山毒物カレー事件の犯行を裏づける状況証拠は何か?
それは、林死刑囚の自宅台所にあったプラスチック容器から発見されたヒ素と、犯行に使用された紙コップに付着していたヒ素は同一とする、東京理科大学理学部の中井泉教授の鑑定結果だけだ。中井教授は、大型放射光施設SPring-8を使って、ヒ素に含まれる不純物のスズなど4種類の重元素を分析し、プラスチック容器のヒ素と紙コップのヒ素の同一性を断定した。
しかし、林死刑囚の弁護団から中井鑑定についての意見を求められた京都大学大学院工学研究科の河合潤教授は、2013年3月に発刊されたX線分析の専門誌『X線分析の進歩 第44集』に『和歌山カレーヒ素事件鑑定資料の軽元素組成の解析』を公表、中井鑑定の誤りを指摘した。
河合教授は、中井教授が大型放射光施設SPring-8で分析した生データを再分析した結果、プラスチック容器のヒ素と紙コップのヒ素に含まれていた不純物のモリブデンや鉄の分量は異なり、プラスチック容器のヒ素と紙コップのヒ素は明らかに別物なので、林死刑囚の犯行を裏づける状況証拠になり得ないと結論づけた。
河合教授の指摘を受けた中井教授は、プラスチック容器と紙コップのヒ素以外に、林死刑囚の親族や知人宅から発見されたヒ素計7点も同一と鑑定したと釈明した。
河合教授は「プラスチック容器と紙コップのヒ素は同一かつ、親族宅などのヒ素とは違うという論拠から、林死刑囚の犯行と断定したはずだ。にも関わらず、中井教授は親族や知人宅から発見されたヒ素計7点もすべて同一だったと発言している。明らかに矛盾している」と中井鑑定の恣意的な錯誤を強く批判した。