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【連載「死の真実が“生”を処方する」第15回】

心臓カテーテルは研究者が自分で人体実験! 腕の血管から心臓まで管を通した

今では日帰りできる心臓カテーテル検査(shutterstock.com)

 医学の進歩にとって“人体実験”は必要不可欠なものでした。われわれが日常的に用いている医薬品や医療器具は、人間を対象とした試験で安全性や有効性が確認できたからこそ利用できるようになったのです。

 現在では当たり前とされている治療法も、確立されるまでは試行錯誤がありました。そして、かつては医学者が自ら被験者になって実証した人体実験もあります。現在は国際的な倫理原則にのっとった人体実験が行われていますが、真実を追究するために日夜努力している科学者は、調べた事象が正しいことを証明するために、自らの体を用いて確認することもあったのです。

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自らが被験者となって開発された心臓カテーテル検査

 心臓の動きや血管(冠動脈)の状態を確認する検査に、「心臓カテーテル検査」があります。脚や腕の血管から細い管(カテーテル)を挿入して心臓へ送り込み、造影剤という薬品を注入してエックス線で見やすくするものです。

 これによって冠動脈が細くなっていたり、血栓で詰まっていた場合には、血管を広げたり、血栓を溶かしたりする治療ができるようになりました。現在では多くの医療機関で実施され、検査だけであれば日帰りで行えます。

 この検査は1929年、ドイツの若手医師(今でいう研修医)のヴェルナー・フォルスマンによって初めて実施されました。彼は心臓の状態を調べる方法を模索していた際、自らの腕を切開し、血管からカテーテルを挿入。同僚の助けを借りてエックス線撮影を行い、カテーテルが心臓まで達していることを確認しました。これが世界初の心臓カテーテル検査でした。

 フォルスマンはこの検査を、自分の感覚(勘)で行っていたはずです。強く押せば血管を突き破り、失血死した可能性もあったでしょう。また、手技が荒ければ血栓が詰まって亡くなったかもしれません。経験の浅い若手医師が、このような偉業を成し得たのは驚くべきことです。彼の成功は、医学界に大きな衝撃を与えました。

 フォルスマンは身をもって心臓カテーテル検査法の有用性を証明したものの、当時のドイツでは華々しく称えられることはありませんでした。第二次世界大戦の混乱があったからかもしれません。しかし、心臓カテーテル検査の初めての発表から40年後、フォルスマンはノーベル生理学・医学賞を受賞するに至ったのです。

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