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降圧薬で「薬物中毒」が治る!? 薬物につながる記憶を消すことで再発防止に

降圧薬で薬物中毒につながる記憶が消える!?(shutterstock.com)

 世界各国で深刻な社会問題となっている薬物中毒。その薬物中毒を降圧薬で治療できる可能性が、国際的な精神医学雑誌で報告された。

 1970年代まで「薬物中毒は薬物摂取を身体が渇望する状態なので、薬物を一旦断っても意志が弱ければ再発は起こる」と考えられていた。しかし、現在では多くの専門家が、「再発の引き金となるのは薬物使用につながる場所、音、光景など環境的要因」だと認めている。つまり、エサの時間を知らせるベルを鳴らすと、エサが目の前にないのによだれを垂らすという「パブロフの犬」と同様、薬物につながる環境刺激に条件反射を起こしてしまうというわけだ。

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薬物中毒につながる記憶が消える!?

 6月23日、米テキサス大学オースティン校とカナダのブリティッシュコロンビア大学の研究グループが、米精神医学雑誌「モレキュラー・サイカイアトリー」(オンライン版)で、降圧薬のイスラジピンの大量投与により、薬物中毒につながる記憶が消えるという研究結果を報告した。まだ動物実験の段階だが、人間での有効性が証明されれば、薬物中毒につながる無意識的な記憶を消すことにより再発防止が期待できるという、今までに類を見ない方法となる。

 この研究では、黒い部屋と白い部屋の2つを用意し、黒い部屋に入るときに薬物を使うラットと、白い部屋に入るときに薬物を使うラットに分け、薬物と部屋を関連づける訓練を行った。その後、中毒になったラットにどちらかの部屋を選ばせると、ほぼ薬物と関連づけられた方の部屋を選んだ。

 後日、研究グループは、降圧薬であるカルシウム拮抗薬のイスラジピンをラットに大量投与し、その後、ラットに部屋を選ばせた。投与当日は以前と同じ部屋を選んだが、翌日からはとくに薬物と関連づけられた部屋を選ぶことはなくなった。「イスラジピンが特定の部屋と薬物を関連づける記憶を消し去った」と研究グループは説明する。

過剰な血圧低下を生じる危険性も

 中毒性のある薬物は、脳の報酬回路を変え、薬物関連要因に関して強い記憶を形成すると考えられている。記憶形成時には神経細胞接合部であるシナプスに変化が生じるが、研究ではこのシナプスにあるイオンチャネルに焦点を当てた。

 降圧薬は、心臓と血管だけでなく、特定の脳細胞に発現する特定のタイプのイオンチャネルをすべて遮断する。研究グループは、イスラジピンがこれらの脳細胞イオンチャネルを遮断し、薬物中毒につながる環境要因の記憶に関与する神経回路を変えたことを見出した。

 また、同グループは、中毒性のある薬物による多幸感を抑える薬は今までにもあったが、今回のような薬物摂取につながる体験をターゲットにした治療は、より大きな効果が見込まれると推測する。ただ、薬物中毒に対してイスラジピンの大量投与を行うと、大幅に血圧が低下する。それを防ぐために、その他の処置を組み合わせる必要が出てくるという。

 日本ではイスラジピンは使用されていない。だが、薬物中毒者や依存者による事件が関心を集めていることからも、今後こうした研究の成果に大きな期待と関心が集まるだろう。
(文=編集部)

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